Hello!companion!



 *厳徒さんと豪さんと信さんが仲良く(?)ワイワイやってるよーな、そんな感じです。
  まあ、パラレルです。たぶん。(たぶん?)






 その日、厳徒は暇だった。
 周囲に人が居ないという意味で暇だったので、「だったら仕事してくださいよ」と真っ当な突っ込みを入れる人も居なかった。最も、した所で厳徒が従うかどうかは解らないが(むしろ従わない確率の方が高い)。
 まあ、ともあれ、暇なので。
「遊びに来ました」
「帰れ!全速力で帰れ!!!」
 その衝撃が飛ばん勢いで、自分の執務室にしれっと現れた厳徒に人差し指を突きつけて豪は叫んだ。吠えたと言ってもいいくらいだった。
「別にいいじゃない。狩魔くんだって一人で退屈してそうだしさー」
「我輩はここで人を待っておるのだ!この後に裁判も控えている!
 貴様と違って激しく執務中なのだからして、コーヒーを入れるなソファに座るな本を読むな――――!!!」
「うーん、ブラックのコーヒーは苦い」
 厳徒は顔を顰めた。豪の叫び突っ込みを右から左に受け流して。
「だったら砂糖でも入れておけ!!」
 豪は厳徒に向かってシュガースティックを矢じりのように投げた。厳徒はそれをキャッチしてコーヒーに入れる。うん、美味しい。
 その額に直撃させてやるつもりでぶん投げた豪としては、その光景に舌打ちするしかなかった。チッ!
「待ってるって誰?愛人?」
「絞め殺すぞ」
 豪(妻と娘持ち)は殺気を用いて睨んだ。
「御剣信弁護士だ。ヤツとかち合う事件についての資料を公開する約束をつけておるのだ」
 と、豪が厳徒に素直に応じて詳細を教えてやるのは親切心、な筈もなく、目的を見つけたら本気で手段を選ばない厳徒に対し、最も被害を少なくする為の対処法だった。
 豪のセリフに、ああ御剣くんか、と厳徒は頷く。最近息子が生まれたのだという報せを聞いているので、すぐに思い当たる。それに、豪と当たる回数も多く、よって厳徒と顔を合わせる回数も多いのだった。
「御剣くんもだけど、狩魔くんも大概真面目だよね。情報なんて隠してた方が有利に進むんじゃないの?」
 厳徒の言い分に、豪はあからさまな冷笑を浮かべた。
「口先だけで決まる勝利になんの意義があろうか。真実を導き出し、非の打ちどころの無い結果こそ我が湛える功績!弁護側の全てを引きずり出す為ならば、こちらの手の内を明かす事なぞ、痛くも痒くもないわ!!」
 なぜなら真の勝利とはそういうものだからだ!と啖呵を切る豪に、厳徒はおお〜、と手を小さく叩いて賞賛する。
「まあ、確かに。負けるにしても正々堂々としてたら格好つくしね。卑怯な手まで使って無罪取られたらそれこそ目も当てられないもん」
「何故そこで負けを前提にした意見を出す?」
 と、豪が厳徒に殺意を抱きかけた、そんな時。
「どうも、失礼します」
 ガチャリという音とガラガラという音に続き、声がした。それが誰か、豪は顔を見るまでもなく解った。
「遅いぞ御剣信!貴様が早く貰いに来ないからこいつと同一空間を共にしてしまったではないか!
 というか何だソレは――――!!!!」
 豪は言いたい事を言ってから突っ込んだ。何故かと言えば、信が赤子同伴で現れたからだ。ガラガラという音の正体は乳母車である。
 その猛烈な異議に、信は。
「息子の怜侍ですよ。大きくなったでしょ?」
 なんてちょっと嬉しそうに言ったのだった。
「そうだな、そろそろ人見知りもするかもしれんな……って違う!!!」
 うっかり父親の顔が出てしまい、自分を諌める豪だった。ここは執務室!自分は検事!!プライベートとは区別しなければな!
「我輩はそれが何者かを聞いた訳ではなく、何の意図を持ってここに連れてきたかを尋ねたのだ!!」
「妻が友達とショッピングに行っているので、世話を私がしている訳です。普段始終つきっきりなので気分転換は大事ですよね」
「だからと言ってココ(検事局)に連れてくるのもどうかと思うが……」
「あれー、御剣くんの所って双子ちゃんだっけ?赤ちゃんがもう一人居るけど」
 突っ込みに困る豪のセリフを遮るように、厳徒が言った。
「ああ、その子が妻の友達の子ですよ。龍一君って言うんです」
「ほう、今からの付き合いだと、仲のいい友達になれそうだな」
「でしょ?」
 パパの顔が再び現れる豪だった。
「……その仲の良さが友達で済めばいいけどね……」
 気になる事を厳徒はぽそりと呟いた。
「まあ、さっさと本題に入ろうではないか。ほら、これが資料だ。受け取れ」
「はい、ありがとうございます」
 穏やかな顔で信がそう言った時、その胸元からメロディーが流れた。
「あっ、すいませんちょっと……」
 信は一言断ってから、その電話に出た。
「うん、どうしたんだい?……うん、うん……えぇぇぇぇっ!何だってぇぇぇぇぇ!!?」
 龍一君の頬をつついて遊んでいる厳徒を豪が窘めている横で、信が急に大きな声を上げた。
「どうかしたのか」
 豪が信に訊く。
「成歩堂さん……あっ、友達の名前なんですが、車で撥ねられたって!」
 それを聞き、「何ぃ!?」と豪は目をむく。厳徒は「おやおや」と口ずさんだ。
「今から成歩堂さんの旦那さんを拾って病院に行くつもりですが、ああ、どうしよう、息子達をどこかに預けた方がいいのだろうか。
 どこかに預かってくれる所、あるかな。
 預かってくれる所、あるかな〜〜〜」
「…………」
 検事として洞察力が長けている豪は解った。
 頼られている!……と。
「……いや、あのな、」
 預かりたいのは山々だがこの後審理を控えているのでそういう訳にはいかない、と豪が言う前に。
「息子ちゃん達は狩魔君がが預かるから、安心して行ってきなよ」
「そうですか!?ああ、ありがとうございます!!狩魔検事なら私もとても安心だ!それでは!!!!」
 シュビ!と手を上げて信は素早く退室した。流れの主導権を譲らないというのは、あるいは優秀な弁護士としての証と言えなくも無くもないかもしれないが。
「…………」
 去ってしまった信はどうしようもないので、豪は元凶に怒りをぶつける事にした。
「わーい、これで暇が潰せるぞー☆」
 しかしその元凶はすこぶるご機嫌だった。
 ぶちぶち、と豪は太い糸が切れるような音を聴いたような気がした。たぶん、堪忍袋の緒が切れたのだ。
「厳徒……貴様ぁぁぁぁぁぁ――――!!!!!」
 その怒声は室内を響かせ、それに驚いた赤ん坊が泣きわめき豪は大慌てであやした。すでに相手のペースにはまっている豪だった。


 とりあえず、豪は事務官に赤ん坊を預かってくれる施設を探すよう指示し、受話器を置いて赤ん坊2名と厳徒が居る室内に思わずため息をついた。赤ん坊だけならまだいいが、厳徒が居るのが豪のため息の元だった。
「ねえねえ、まだ2人は喋れないのかな」
 2人掛けのソファをくっつけて作ったインスタント広場に赤ん坊2人を置いた。乳母車に座りっぱなしでは可哀そうだという豪の配慮だった。
 その2人を眺めながら、厳徒が一人ごとのように豪に訪ねた。
「まだ文法を持って話す事は無いだろうな。単語くらいなら、言ったのを真似して言えるかもしれんが。
 言葉とは、そうやって覚えていくのだからな」
「ふぅん、そうか。つまり、いっぱい話しかければいいのか」
「そうなるな」
 豪の相槌を聞き、厳徒は徐に怜侍君を抱っこした。
「ほーら、高い高ーい。人がまるでゴミのようだー」
「嫌な言葉であやすな」
 豪はとりあえず出向く必要のある執務は余所に回し、その対価交換のように室内でこなせる仕事を請け負っていた。それを片付けつつ、厳徒の行動にも目を光らす。色んな意味で色々忙しい豪だ。
 しかしそれでも、思ったより普通に厳徒は赤ん坊をあやしていた。とりあえず、仕事が片付くまで厳徒に相手をさせてよさそうだ。豪は書類にペンを走らす。
 厳徒も厳徒でとそれなりに楽しんでいた。革袋は匂いが嫌かなぁ、と厳徒が思ったので取り外した。その後、龍一君に「ほっぺたフクフクだねぇ〜」と言いつつ手を伸ばしだが、それは怜侍君の手でばしぃ、と叩かれてしまった。ついでに、キッと睨まれる。
 その様子を見て、厳徒は。
「ねえ、狩魔君」
「何だ」
「やっぱり怜侍君は、龍一君の事が好きなのかなぁ。恋人にしたい方の気持ちで」
「突然何を言い出すんだ?貴様は」
 思わずペンを止めてしまった豪だった。
「いやだってね、僕が龍一君に触ろうとすると邪魔するし、睨まれるし。
 龍一君が無邪気な顔を怜侍君に向けると、その後なんだか自分の感情との差異を見つけたようなちょっと寂しい顔で怜侍君はその笑顔に応えるんだよ」
「赤子がそんな切なそうな顔をするか」
 本当なのになぁ、と厳徒は信用してくれなかった事にちょっと唇を尖らせた。
 が、そのすぐ後、実に単純で解り易くかつ即行出来る確認の仕方を思いついた。厳徒の頭上で豆電球がピッカーン☆と光る。
 厳徒は、龍一君を抱っこした。その腕を怜侍君はむぅむぅ唸りながらしがみついたが、所詮赤子と大人なので、文字通り赤子の手を捻るように簡単に解かれてしまった。実態に捩った訳ではないが。
 厳徒は、怜侍君に向かってにこっとほほ笑んだ。それから、さっさと成歩堂から手を放せ、と睨む怜侍君の前で。
 ちゅっv
 と龍一君のほっぺにキスしてみせた。
「!!!!!!!」
 途端、怜侍君の体が雷に打たれたみたいに硬直した。
 そして。
「〜〜〜〜〜〜〜っ、ふぇ、う、あ、ぁ、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――ん!!あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――っっっ!!!」
 じわじわっと目に涙を溜め、爆発したように泣き出す。その怜侍君の号泣に、豪が椅子に座ったままステーン!と転ぶ。
「な、な、な、何だ、何がどうした!?」
「あっはっは、泣いた泣いたー♪」
「赤子を泣かして何を喜んどるんだ貴様は!!鬼か!!!!」
「ある種、最も狩魔君には言われたくないセリフだな、それは」
「何を真顔で言ってるか貴様―――!!」
 実はドラキュラっぽい顔を気にしている豪だった。
(って、こんなヤツに構っている場合ではないぞ!)
 豪ははっとした。2人居て、片方が泣いたとしたら。
 見れば厳徒に抱っこされている龍一君も、泣きわめく怜侍君に触発されるように目にうるうると涙を溜めていた。そして。
「……ふわぁぁぁぁぁぁぁん!あぁぁぁぁぁぁぁん―――!!!」
「あー、やはり泣いたか……!!」
 と豪は頭を抱えた。執務室に、赤ん坊の泣き声がデュエットする。
「うーん、二次災害」
「誰のせいだと思っとるんだ。だ・れ・の!」
「この描写だけでミツナルだと名乗ったら怒られるかな?」
「何の話をしとるんだ!」
 その間にも、2人は泣き続けている。その小さい体から、どうしてこんな音量が出るんだ、っていうくらい大きな声で。
「ああ、ほらほら、男が泣くものじゃないぞ」
 怜侍君を抱き上げた豪は、そう言いながらあやした。が、なかなか泣き止まない。まるで余命を宣告されたように悲痛に泣き続ける。
 豪が抱き上げた事で近くなった怜侍君に、厳徒は丁度いいとばかりに。
「はいはい、ごめんね。ちゃんとファーストキスは怜侍君にあげるからさー」
 などと呑気に言いながら、泣きわめいている怜侍君の口に、同じく泣いている龍一君の口をくっ付けた。すると、スイッチでも入れたようにピタ!!!と怜侍君の泣き声が止む。
「………。…………。……………っ!」
 その後、怜侍君は目を見開き、かぁぁぁぁぁぁっと真っ赤になって俯いた。俯いた怜侍君を不審に思ったのか、龍一君も泣くのを止めてハテナマークを浮かべつつ怜侍君を見る。真っ赤になった怜侍君は、龍一君の視線から逃れるようにじたばたした。まるで、恥ずかしくて顔が合わせられません、みたいな。
「はい、一件落着!」
 めでたしめでたし!と自分で拍手する厳徒に、豪が殺意を抱いた所で誰も文句を言えないだろう。


 その後は特に泣かせる事も無く、恙無く時を過ごした……と、言いたいところだが、暫くしてまたちょっと異変事態が起こる。
「あれっ、龍一君がぐずってる。
 どうしたのかなぁ、ミルクはあげたし、おむつも替えたし」
「全部我輩がな」
 厳徒は見ていただけだった、という。
 豪は席を立ち、龍一君を抱き上げる。その時、怜侍君に睨まれたが、豪は気のせいにする事にした。
 龍一君の小さい手を握ると、平素より熱く感じられた。
「ふむ。どうやら、眠たいらしいな……厳徒、ブランケットを持ってこい。寝かせてしまおう」
 てきぱきと豪は判断を下し、寝床を作るとそこに2人をそっと寝かした。眠れる環境になったからか、2人はほどなく眠りの世界の住人となったようだ。
「いやぁ、鮮やかなもんだねぇ」
 厳徒は心底感心したような声で言った。破天荒な厳徒にだって、自分に出来ない事をこなす人物に対して尊敬の念を抱く事は出来る。
「ふっ……当然だろう。我輩を誰と心得る?
 完璧が家訓の狩魔豪だ!よって、当然父としても完璧!!夫としても完璧!!」(←寝ている赤子の為に小声で)
「これで検事としても完璧なら良かったのに」
「何だと貴様ぁ―――――!!!!」(←寝ている赤子の為に小声で)
「だって狩魔くん、最近御剣くんに負け続きだし」
「誰の捕まえてきた被告だ誰の――――――!!!!」
「僕らは捕まえるのが仕事。見極めるのが君の仕事。違う?」
「違わんが!それは正しいが!!」
 凄い理不尽な事なのに、上だけなぞると世論に聴こえてしまうのはどうしてだろうか。豪はロジックの矛盾に突き当たる。
「だいたい出来婚の癖に何が完璧なんだか。それが計画ってのなら、君はとんだ鬼畜だって話だよ」
「…………それは貴様………弄ってはいかん事だろうが…………」
 ここで豪が押し殺した声で厳徒に言うのは、寝ている2人の為の配慮ではなかった。
「した事が事なだけに。弄る、と」
「上手い事言うなぁ――――!!!」
 顔が真っ赤になる豪だった。
「赤ちゃんって起きてても可愛いけど、寝てても可愛いねぇ〜」
 厳徒も2人を起こさないよう、小声で囁くように言った。
「そんなに欲しいのなら、結婚すればいいだろうに」
 豪のセリフに、厳徒はあっははは、と笑いながら手を振った。
「いやぁー、僕みたいなタイプはその他大勢の中の一人ならいいけど、伴侶として一対一で付き合うのにはちょっとキツいと思うからさー」
「……そこまで自分を解っていながら、少しは省みようとは思わんのか?」
「狩魔君……人は機械を使って飛ぶ事が出来ても、翼を持つ事は出来ない」
「そこまで無理な話か?今のは」
 厳徒がシリアスに語ると、室内の電話が鳴った。素早くそれを取る豪。電話の先は、事務官だった。
『さっき頼まれた件ですが』
「ああ」
『見事に無しの礫ですね。今からだとどこも預かってくれません。むしろ、そんな都合のいい事がまかり通ると思ってる方がどうかしてますね。世の中舐めてるんですか?』
「……それは正しい意見かもしれんが、もう少し言い方を和らげようとかは思わんのか?」
『給与が上がるなら努力します』
 暗に却下されたようだ。
『では、そういう事で』
「そういう事って……オイ!それでは困る!赤ん坊はどうなるんだ!むしろ我輩がどうなる!」
『知りません、そんな事は』
 ガチャン、と冷たい機械音で会話が終わった。ツーツー、という音が一層物哀しく思う。
 2人が起きないくらいの音量を気遣いながら、豪は乱暴に受話器を戻した。厳徒には電話の相手の声は聞こえないが、豪を見るだけでどういう内容かを推し量れた。
「一体、どうするんだ!まさか、赤ん坊同伴で裁判に出ろと言うのか!?」
 豪は苛立ちに任せて叫ぶ。それを聞いていた唯一のギャラリーの厳徒は。
「うん、それでいこう」
「……………。は?」


 審理は傍聴席のざわめきから始まる。
 ざわざわ。
 ざわざわざわ。
 
ざわざわざわざわざわ!!!
 しかし、今日はそれが1.5倍くらい騒がしいようだ。勿論、理由というか原因はきちんとある。
「……狩魔検事……」
 裁判長がざわめきの発端となっている豪に声をかける。
「その赤ん坊たちは、どうしたのですかな?」
 ざわめきを代表するような最もな質問に、豪が微妙な汗をかきつつ答える。
「……これは……知人の子で……こらッ怜侍君!引っ張ってはいかん!引っ張っては!!!」
 豪に抱っこされている怜侍君は、胸元のヒラヒラが気になるようだった。まあ、その気持ちは解らないでもない。
 ギリギリの限界まで粘り、結局どうにもならなかった豪は、一度は「アホかぁ―――!!」と切り捨てた厳徒の意見に従ってしまった。下手な人物に預けてしまうよりかはと判断した上だが、どうやらあの時の精神状態はまともでは無かったようだ、と豪は今更自覚出来た。
 しかし今日当たった弁護士は運がいい、悪いで言えば悪いよりだ。思いっきり異議したい顔をしながら、触れずにいるのはこの藪をつつけば蛇が出てしまうと思ったからだろうか。もしそうであるなら、豪はそれを賢明だと評価せねばらなない。
「それに厳徒捜査員まで。どういうつもりなのか、説明してもらいましょうか」
 キッ、と裁判長が厳しい目で検事席の2人を見る。
「ほらチョーさん、最近大きな会社だと社内に託児所設ける所が出てきたじゃない。そんな感じで思ってくれていいよ。
 女性の社会進出には育児に寛容な職場が大事だからね!あと、男性側の理解!」
 厳徒のこの口上に、おそらく既婚女性からの同意の強い声が上がる。どうもどうも、とその声に応える厳徒。
「ふぅむ、確かに……私も、常々そう思っていました」 
 本当か――!!と豪は突っ込みたかったが、今は自分たちに追い風の状況なので流れを変えない為に黙る事にした。
「そういう事だからして今日の裁判、3分で終わらせて貰うぞ!ミルクの時間が差し迫っているのでな!!」
 バン!と豪が机を叩いて言う。その音に驚いて泣きそうになった怜侍君をあやすのに、いきなり3分浪費した気がしないでもない。
 と、その横で厳徒がぱちん、と指を鳴らす。
「あ、そうだ!審理の短縮を図りなおかつ赤ちゃんを同伴する必要性を感じさせるナイスアイデアを思いついた!」
「では検事側の冒頭陳述を――」
 ハーイ!と発言しようと挙手する厳徒の横で、豪は淡々と口述し始めた。怜侍くんを片腕に抱いて。
「狩魔くん、老眼の次は難聴?」
「どっちも違うわ――――!!」
 素早い突っ込みでもって、豪は難聴の疑惑を晴らした。
「厳徒捜査官、ナイスアイデアとは何でしょう?」
「止めろ裁判長!こいつに発言を許すな!!」
 しかし、そんな必死の豪の主張は、裁判長の知的好奇心の前では無力だったようだ。厳徒はえへん、と胸を反って言う。
「ほら、赤ちゃんって生まれる前は神様の傍に居るっていうじゃない。だから、抱っこさせてみれば被告人が有罪か無罪かすぐに解るんじゃない?」
 魔女裁判よりむちゃくちゃ言うヤツだ、と豪は蔑んだ目で厳徒を見やった。厳徒はそれにウィンクで対抗した。たぶん、意味はない。
「まあまあ。試しにやってみて成功だったらめっけもんじゃない」
 いたって気楽な声でそう言った後、厳徒は勝手に検事席を乗り越えて被告に龍一君を抱かせた。今更に被告の事を表記するが、相手は30前後の女性で不倫相手の男性を殺した容疑にかけられているのだった。彼女は、厳徒に手渡されるままに龍一君を何となく受け取ってしまう。検事席では、じたばたしはじめた怜侍君を豪が落とさないように必死に抱きかかえている。
 被告に抱っこされた龍一君は、暫くきょとんとした顔をしていたが、徐々に顔を崩して泣き始めた。
「ふ、ふぇ〜〜……うあぁぁぁ〜ん!」
「おっ、泣いたね。有罪だ!」
「だから、貴様、いい加減に……」
「……ふふっ、大人の目は誤魔化せても、赤ん坊の純粋な目までは誤魔化しきれませんね。
 そうです。私が犯人です」
「白状し始めた――――!!!?」
 豪は驚愕した。がびーんと。
「私が彼を殺したのは<略>で<略>の<略>という訳です」
「なるほど……そこまで話してくれたのなら、もう審理の必要も無いくらいですね。
 被告は有罪!以上、閉廷!!!」
 カンカンカン!(←木槌の音)
「…………」
「やったね狩魔くん!ミルクの時間に間に合ったよ!!」
 はしゃぐ厳徒の声も、どこか遠くに聞こえる豪だった。


 ああ返す返すも最悪な裁判だった、と豪は連日悪夢を見させたおとといの裁判に未だ悩まされていた。
 が、いい加減切り替えなければならない!今日からまた、新しい一日が始まるのだから!!
 あの後、少し経ってから赤ん坊2人は無事信が迎えにきた。事故に遭ったという龍一君のお母さんだが、自動車の前がぺしゃんこになる規模だったというのに手首を捻っただけで済んだそうだ。矛盾するようだが、人間というものは人知を超える存在なのだ、と豪は思った。
 ともあれ過ぎ去った一日はいい。さあ、今日も完璧な一日にしてみせる!と豪はその為の第一歩にと、まず自分の執務室のドアを勢いよくバーン!と開けた。
「狩魔君、そんなに大きな音出したら二人ともびっくりしちゃうよ」
「さっさと返して来い―――――!!!」
 この日の豪の第一声は、龍一君と怜侍君を抱っこした厳徒を叱咤した声だった。




<おわる>

年代を考えると携帯電話があるのおかしいとか、そんなの別にどうでもいいと思います(真顔で)

基本ワタシは快楽主義なので、凄惨な事件も起こらずみんなが仲良くなってたらな、と原作がシリアスであればあるほど思います。そしてコレはそんな思いの一端です。凄惨な事件は起こってませんが、悲惨な人が居るのはまあ、仕方ないとしますね(しれっと)。

豪さんの事務官ですが、「罪門」にするか「牙琉」にするか迷ってたり。
その後を考えると牙琉の方がいいかな、とも思います。
豪さんを出来ちゃった婚にしたのは、婿養子と出来ちゃったとどっちがより面白く弄れるか?と考えた結果です。