ミツルギさんもなるほどくんも女性です。
つーか基本キャラ全部の性別が逆転してますがそれでもイイぜ!って人はどうぞ。
自分は童顔だと自覚しているのか他の理由からなのか、少しでも大人っぽくしたいから、と前髪を後ろに撫で付け、オールバック調の髪型をトレードマークとしている。
しかし、結果として額を強調させるその髪型は黒目がちで大きな双眸を際立たせさせ、むしろ幼く見えるのだという事を指摘してやるべきか否か。そんな風に迷うのは嫌われてしまうからかもしれない不安と、そのデコッパチな髪型を気に入っているからという二つの理由からだ。つい見詰め続けてしまいがちになるが、いくらなんでもそれは挙動不審なので、格好としては持参した書類に目を落としていると見せかけつつ、パソコンで何かのデータを打ち込んでいる相手をさり気なく見ていた。その真剣な顔すらもいっそ可愛い。
「…………。御剣ってさ、」
と、唐突に名前を呼ばれ、じろじろ見ていたのがバレたか!と慌てて視線を書面に戻すと、思いも寄らない内容のセリフが吐かれる。
「いっつも下ズボンだよね。スカートとか穿かないの?」
「………は、」
まるで前触れも無い内容に、一瞬返答が送れる。
あからさまに訝しんだ自分の顔に、いやちょっと急に気になって、と慌てたように理由を付け加えた。
先日助手とデパートに出かけ、季節が変わった事で新作の並ぶブティックのショーウィンドウを見て、ふと思ったのだそうだ。そういえば、スカートの御剣を見た事無いぞ、と。自分が居ない時にでも自分の事を思ってたんだ、という事実にちょっとじーん、と嬉しくなる。
「……別に意図して穿かない訳ではないんだがな。何となくズボンに手が伸びるというか」
実際2着くらいスカートのスーツを持っていた。まぁ、下は他のパンツとあわせてしまっているので、それを知っている人間は皆無だろうが。
しかしスカートと言えば成歩堂である。彼女のスカートの丈はミニスカートと呼ぶに十分な短さで、本人に淫靡なイメージが無い為に行動的で溌剌とした印象になっているが、走り出したりとか転んだりとか、何かの拍子で下着が見えるのではないかと少しひやひやとする。でもってそれを穿く理由が、今は無き彼女の師匠がその方が似合うと勧めたのが理由なのを知っているので、何だかもやもやともする。
「まあ、御剣の場合パンツルックがイメージに合ってるからね。王子さまって言うか」
胸元もヒラヒラしているし、と微笑んで言う。
「……でも、スカートも似合うと思うなぁ。背が高いし、足が長くて見栄えしそう」
「そ、そうか?」
親しく、好ましいと思っている相手からじっと見詰められた上に容貌を褒められると、なんともむず痒い。
「うん」
と何の他意も無く、素直に頷いている。
「……ふむ。まあ、ならちょっと考えてみるか……」
照れを隠し、ちょっと恩着せがましい物言いで言うと、成歩堂の顔がぱっと期待で明るくなる。すでに胸中はすっかり穿くつもりで居るので、実際に穿いてみせた反応のようで心が躍る。
「着たら、教えてね。内緒になんかするなよ」
「別に隠したりは……」
するものか、というセリフの後半は、きらきらとした笑顔に飲み込まれてしまった。
見られている。
絶対。
間違いなく!!
思い立ったら吉日な所のある自分は、後日早速穿いてみた。普段穿きなれていない物は、やはり違和感を拭えない。しかし、そんな些細な違和感なんてどうてもいいくらいに、視線がさっきから気になって仕方無い。
(何だ!そんなに私がスカートを穿いているのが珍しいか!女がスカートを穿くのが珍しいのか、貴様らは!)
胸中でどんなに激怒しても、口に出せば通じない……という訳でも無く、その心境を忠実に表した顔は元が整っているせいで余計に怖く見えた。美しいのではあるが、それ以上に怖くて誰も近づけない。近づいて、表立って何か言われたら怒鳴って済ますだけだが、遠巻きにこそこそ言われているとどうやって威嚇すればいいのか解らない。黒い疑惑で騒ぎ立てられた時の方が、まだ対処に容易かったように思えた。
(私のこの格好に何か口を挟んでみろ……留置所にぶちこんでくれる!)
そんな怒りのオーラを纏った御剣に、果たして誰が近づけようか。誰しも突然の路線変更をかなり気にして真相を尋ねたいながらも、誰も聞けなかった。
そこまでの命知らずは此処には居ない。
しかし。
「わぁー!みつるぎ検事がスカート穿いてる!」
なんて言う、ちょっと甲高い少年みたいな声がした。
その内容に脊髄反射のように鋭い視線を声のした方に向けたが、剣呑な色はすぐに引っ込む。
「ね、ホラ!スカート穿いてるね、なるほどくん!」
「人を指差すもんじゃないよ、真宵ちゃん」
ずびし!といっそ清々しいほど無遠慮に突きつけた人差し指を、苦笑してやんわりと下げさせる。
「成歩堂……と、真宵君」
「こんにちわー、みつるぎ検事!」
ててて、と歩み寄り軽くあった距離を縮め、挨拶するに十分な近さで改めて声をかける。彼は成歩堂の師匠の弟で、女性も君付けで呼ぶ捌けた性格の兄を真似て、彼もまた同じ呼び名を持って成歩堂を呼んでいる。対して成歩堂は、最初彼を女の子と思っていたせいで、それが勘違いと解った時にはちゃん付けの呼び名ですっかり定着してしまっていた。しかし本人が気にしていないので、その呼び方が訂正される事も無く、今にまで至る。きっとこれからもそうだろう。
小走りでやって来た真宵とちょっと遅れて、成歩堂がやってくる。見れば解る自分の変化に、その部位に視線を投げかける。
「早速、穿いてみたんだ?」
「………ああ、まぁな」
どうだ、似合うか?と意気込んで尋ねたい所だが、周囲の目があるこの場でそれは躊躇われた。ならば向こうからの言葉を待とう、と口数少なくしている。
スカートのスーツ姿を見やった後、自分と顔を合わせる。似合うよ、と言ってくれるのを待っていたというのに、どうしてか自分と目を合わせた途端、表情が翳ったように思えた。
「…………?」
まさかそんなに似合わないのか?と心に暗雲が立ち込める。
「ね、みつるぎ検事」
気まずい空気が流れかけた時、無邪気な真宵の声がそれを打ち払ってくれた。
「お昼ご飯、一緒に出来ますか?今から行くんですけど」
「ああ、構わないが」
むしろ願ったり叶ったりだ。彼女の見たてとは裏腹に、自分はスカートが似合わなかったみたいだが、けれども出来れば一緒には居たい。
所詮服は服だ。ただの包装紙と一緒だ。それが似合わないくらい……表情を曇らせるくらい……
「……………」
いかん。気が沈む。
「じゃ、ピザ食べようよ、ピザ!今日は何だかイタリアンな気分なんだよ!」
「はいはい。……ね、御剣、それでいいかな?」
「………あぁ」
こそこそ何か言われたり、遠巻きにじろじろ見られても、憤るだけでこんなに凹んだりはしなかったのに。
今更ながら、彼女は自分の特別なのだと、出来ればもうちょっといい形で知りたかったな、と思った。
空腹で食事に真宵の意識が集中していたせいか、どうして急にスカートを穿いたりしているのか、という質問は無かった。これはちょっとありがたいと思う。成歩堂の期待にそぐわなかったみたいで今はそれ関連の話を向けられるのが辛いし、何より成歩堂に進められたからだ、という動機を素直に語るのも気恥ずかしい。
訪れた店は、3人からのコースセットメニューが組み立てられていて、色んな料理が楽しめるね!とニコニコする真宵を見て成歩堂がニコニコし、そんな成歩堂を見てうっかり自分もニコニコしそうになって頬を引き締めた。
デザートまで食べ切り、真宵がトイレへと席を立った。その時だった。成歩堂が自分に話しかけてきたのは。
「……あのさ、御剣?」
「うん?」
自分用のブレンドには些か劣るが、食後の紅茶を啜っていると成歩堂が上目遣いに話し掛ける。意図して誘っているのでなければ、後ろめたい事があるから顎が引けているのだろう。一体何だろうか、と無意識に心当たりを探ってみる。
「スカート穿くの嫌……だった?」
「ん?」
眉を顰める前にきょとんとなる。
「何か、さっき会った時、眉間に皹が入ってたし……」
「……せめて皺と言わないか」
毎度の事ながら、と思いながらもそこは突っ込む。
「昨日あんな事言ったせいで、無理させちゃったかなって……」
ああ、それを気にしてあんな表情だったのか、と自分の姿が滑稽だったせいじゃなく、ちょっと胸を撫で下ろす。そして、相手を安心させるように微笑を浮かべ、
「確かに君に言われた事がきっかけだが、選んだのは私だ。そこまで気に病む事は無い」
「そう……?」
と、何処か揺れているような目を向けられ、何だか、う、となる。
「あ、あぁ。さっき不機嫌だったのは、ただ周囲の目が鬱陶しかっただけで……」
「………。やっぱり、嫌な思いさせちゃったんだ……」
「いや!だから君が気にする事は無いというのに!」
しょぼん、と肩を落とす成歩堂に、慌ててフォローを入れる。
全く、どうしてこうも人が傷つく事に敏感なのか。自分だってよほど傷だらけだろうに。
「と、ところで」
話題の転換も図り、そして一番肝心な事を聞く。
「どうだ?」
「………?」
やっぱり言葉が足りなさ過ぎたか、何の事やら解らない、と目を瞬かせている。
「………だから、だな………」
どうも気恥ずかしくてもごもごと言いにくそうにしていると、こっちの意図を汲み取ったらしく、あぁ、と成歩堂が頷く。
「とっても似合ってるよ、御剣」
「…………」
さぁ、とまるで波みたいに顔に朱が走るのを、自覚はできるが止まらない。誤魔化すように紅茶に手をつけると、その時丁度見てしまった彼女の微笑んだ顔に気を取られ、まだ熱い紅茶を思いっきり含んでしまい、ちょっとした騒動を巻き起こしてしまった。
<END>
何か女同士の方が上手くいくのかこの人達は……!
ゴドーさんが次出ます。