バレンタインは恋人達の為の日……という訳でもないが、恋人がこの日をイベントとして利用するのは確かだろう。
 勿論、法介だってこの日をスルーつもりはない。……最も、相手の成歩堂はあっさり流すかもしれないが。
 でも、バレンタインなのだ。チョコの食べあいっこにかけつけてじゃれるようなキスとかしたいではないか!という己の欲望に忠実な法介は、成歩堂の為に結構いいお値段のチョコを買って来た。出来れば、成歩堂から貰いたいのだが。
 時刻は、2月13日午後11時58分。あと2分でバレンタインだ。法介は、戸棚の一番下から綺麗な包みを取り出した。
 今日から明日にかけて、みぬきは成歩堂のかつての助手の家にお泊まりに行っている。春美おねえちゃんとチョコ合宿なの、と法介の知らない人物の名前を挙げてとても嬉しそうに説明して。そこで、法介はすかさず自分の部屋に成歩堂を招いた。成歩堂の自宅は事務所と兼なので、する事をしてしまうと始終もやもやしてしまって法介の精神上よろしくない。まあ、成歩堂は気にしないかもしれないが。そんな訳で、ここは法介の部屋だ。いたって平凡な、標準的なワンルームだ。しかし最近出来た物件なので、耐震と防音はそれなりにしっかりしている。実際、隣の住人が恋人らしき人物を連れ込んだ時でも、法介はそれっぽい物音も声も聴こえなかった。なのできっとダイジョーブだ。
「わあ、ありがとう」
 チョコを受け取った成歩堂は、本当に嬉しそうにふわりと顔を綻ばせた。すでに入浴は果たしていて、程よく火照ってる身体やぱらりと落ちている前髪と合いあまって、たまらなく可愛らしく見える。しかも今は髭も剃っているので、一層幼く見えた。もう据え膳と言っていい状態に、今すぐ押し倒してしまいたいが、まずはチョコレートを貰って喜んでいる成歩堂を観賞すべく、それは一時堪える。
 成歩堂は包みから本体を取り出す。
「箱に猫が描かれてるよ。可愛いね」
 可愛いと自分に呼びかける成歩堂の方が100万倍は可愛い。法介は真面目に思う。
「なんか、王室御用達なんですって。そのブランド」
「へえ……」
 相槌を打ちながら、箱をあける。そこには、薄いチョコレートが並んでいる。形は流線型で、猫の舌をイメージされているらしい。
「じゃ、食べようか」
 成歩堂はそう言い、舌出して、と法介に言う。言われるまま、医者に喉を見せる時のように舌を出す法介。その上に、薄いチョコがちょんと乗せられる。成歩堂が今からする事が、多分自分が望んだ事と合致しているのに、内心法介は喝采を上げる。
 ふわり、と妖艶さを増した笑みを浮かべて成歩堂が顔を近づける。法介の舌に乗せられたチョコは、すでに溶け始めていた。そこに、成歩堂の舌が滑る。それから唇が合わさった。口が塞がれて、チョコの甘い芳香が鼻腔から抜けていく。
「ん………。甘くて美味しいね。これ」
 合間に成歩堂が至近距離で呟く。確かに、値段もそれなりだっただけあるらしく、普段その辺のスーパーで買うようなチョコより美味しかった。どこがどう違って美味しいのか、という詳細を求められると困るが。
 いつもは舌同士を絡める所を、今日は舌の表面にあるチョコを舐め取るべくざらりと擦りつける。普段とは違う動きのキスに、何か遊び心でも擽られたのか、単にチョコを舐め取っている動作が可笑しいのか、成歩堂が時折小さく、ふふ、と笑う。
(……可愛い!)
 ぐっときた法介が本格的な艶事をけしかけようと圧し掛かるより前に、成歩堂が離れてしまった。
「ご馳走様」
 全部取りきったのか、最後にチュ、と音を立てる可愛いキスをして、にこっと笑いかける。無邪気でいて、とても扇情的だ。法介としては第2弾とか期待したのだが、生憎チョコレートの箱は閉じられてしまった。
「あれっ。もう?」
 拍子抜けして、思わず疑問が出る。すると、成歩堂は答えた。
「夜に甘い物を食べると虫歯になっちゃうからね」
 昼間食べてもなると思うが。法介は思った。
 そうして、成歩堂は脱ぎ捨てたパーカーを手繰り寄せ、そのポケットを弄る。そして、小瓶を取り出した。
「はい」
 ちょん、と手に乗せられたそれを、法介はまじまじと見詰めてしまった。
「これ……って?」
 パッと見た目は、何かリキュールの小瓶みたいな感じだ。小さいフラスコみたいな形で、濃いブラウンのガラス。黒いパッケージにはデザインチックな書体の金色の文字で何か英語が書かれている。堪能とは言えない語学力で、それでも何とか読み取れた単語がある。
 まず「カカオ」。それと「チョコレート」。
 それから。
「……ローション?」
 ローションと言えばあのローションだろう。あの時使うローション。成歩堂が差し出したこの場合、それしか無い筈だ。
「うん」
 瓶を眺める法介の視線と合わせるように、肩に成歩堂がしな垂れかかる。
「カカオフレーバーのローションなんだって。チョコの匂いなんだって。
 ボルハチの店長にね、「年下の彼氏にバレンタイン何をあげればいいかなぁ」って相談したら、これがいいってくれたんだ」
 法介は、まずバレンタインのイベントを恋人として盛り上げようとしてくれた成歩堂に感激した。
 次いで、未だ見た事も無いボルハチの店長に果てしなく感謝した。ありがとう、ありがとう!!
「これなら、虫歯にならないだろう?」
 成歩堂がコロコロと笑う。それに、法介も笑みを返した。
 法介もすでに入浴済だ。遠慮する要素が何も無いから、法介は口付けの勢いに成歩堂を押し倒した。



 肌を暴くと同時に愛撫も施していく。はっきりした痕が残せないのが少し残念だが、その分とばかりに丹念に舌を這わせていくとそれに成歩堂が感じて、下肢を肌蹴る頃にはすっかりいい感じに全体が上気している。潤んだ目が期待するように法介へと向けられていた。
 力が抜けたように割り開かれた成歩堂の両足の間。其処に鎮座している法介は、出番が来たな、と瓶の蓋を開けて手の平にローションを零す。
 それは色は透明だったが。
「うわ……ホントにチョコの匂いするんだな、コレ」
 それも、所謂チョコ風味の安っぽい匂いではない。コロンとしても使えそうな、品のある香りだ。これがカカオの香りなんだろうな、と法介は思った。
「……そう、なの……?」
 とろんと熱に浮かされたような調子で成歩堂が言う。早く、と強請られているようにも取れなくは無い。
 薫りが成歩堂の所まで届いたのだろう。「あ、ホントだ」と小さな声で呟いた。
「んん……っん………!」
 手にたっぷり纏わりつかせたローションを、後孔に塗りこむように撫で回す。最初、異物に収縮した入り口が撫でる内に綻んでくる。そのタイミングを見計らって、緩く反応している前へ手を伸ばすと同時に指を埋め込んだ。ぴくん、と成歩堂の身体が撥ねる。
「はぅっ……あっ……!」
「痛い?」
 聞くと、ふるふると首を横に振る。嫌がっているような素振りでもあるが、この場合法介の質問に否定を返す意味でされている。
 慣れているから、乱暴にしても平気。と成歩堂はいつも言うが、やっぱり法介としては優しくしてやりたい。初めてだからとか慣れているとか、そんなものじゃなくて。
 好きで大事だから優しくしたいのだ。簡単な事だ。
 最も、そんな風に丁重に扱われるのが気恥ずかしいらしい成歩堂の反応を見るのが楽しみ、という邪心もあるが。
「あっ……あ………あぁぁッ……!」
 指が中に進むにつれ、成歩堂が嬌声を上げる。感じる箇所を掠めた時、一層一際高く鳴いた。声を上げる度、身じろぐ半身がまた艶かしい。しどけなく開かれて曝されている内股が、段々朱に色づいていく。嬌声で聴覚を擽るだけではなく、視覚からも感じている事を法介に訴える。しかも今回は、嗅覚のオプションまでついてきた。中へ塗りこまれたカカオのローションが、熱くなった体内から薫り立つ。実質は違うが、成歩堂から香っているように思える。
(………。美味しそう……)
 色んな意味で。と、いうかWの意味で。
 この香りを発する物は甘くて美味しい、という認識が脳にあるせいか、法介の喉がごくりと鳴った。まあ、これもWの意味でだが。
 そういえば、マンネリ防止で一番効果的なのは匂いを変える事だと何かの記事で読んだ事がある。一番ダイレクトに性欲に響くそうだ。嗅覚というヤツは。
 まあ自分たちの場合マンネリとか考えられないけど、たまにはフレーバー付きを使うと刺激的で楽しそうだな。と法介はそんな事を考えながら指を動かしていた。指はかなりスムーズに動かせるようになり、感じ入った成歩堂の目尻に涙が見える。吐き出す息も熱が篭る。
「あ……ぅ……うぅんッ……!」
 ぴく、と足が引き攣るように撥ねる。
 法介はこのローションは、香りがついているだけで他は普通のローションと変わらないと使っていたのだが、何だかどうも香り以外でも何かがありそうな気がしてきた。
 何故って。
(何か……中がいつもより……)
「……ぁ……つい……」
 胸中の法介の呟きを繋ぐように、成歩堂が微かに呟く。きゅぅ、と切なそうに眉を顰めて。顔の横で握られた手も、震えているように見える。
 2本に増やした指が、成歩堂のいい所を掠めると内壁が締め付ける。しかし、それは異物を押し出すような動きではなくて、絡み付いて離さないような、扇情的なものだった。指で慣らす段階で、この反応は早い。
(興奮剤とかでも入ってたのかな……)
 全て英語表記だったから、効能とかまでは判らなかった。後で響也に翻訳を頼むとか……いや、どう頼めばいいんだか。
「オドロキくん………」
 感じているのを堪えながら辛うじて、といった具合で成歩堂が法介を呼ぶ。
「はい?」
「もう………来て」
 囁かれた声で発せられたセリフに、法介が一瞬呆ける。
「お願、い……熱い、よぉ………」
 潤んだ目が必死のように懇願する。
「――――」
 ぷちっと理性が切れた……という訳でもないが(そもそも切れるまでの強固な理性でもない)やや性急に中に留まっていた指を引き抜き、自身を後孔に押し当てる。先走りでぬめる先端を擦り付けた時、小さく成歩堂が法介を見詰めて鳴いた。期待するような、急かすような。
 ぐ、と腰を押し付けると、思いの他すんなりと中へと突き入った。そのまま、途中で突っ掛る事無く全部が埋め込まれる。
「あぁぁぁっ!……んんっ……一気、に全部入っ……っ、」
「欲しかったんでしょ?」
 挿入の衝撃に震える成歩堂に、揶揄するように法介が言った。
「ん………ぅ……」
 それに小さく成歩堂が呻いたのだが、ただ声が出ただけかのか、法介に応えたのかがやや曖昧だ。いずれにせよ、奥まで入っている法介のせいで、声はセリフにならないようだ。
「じゃ、動きますよ」
「んん――ッ!……っは、あぁッ!あッ!」
 やはりいつもより敏感になっているせいか、反応が過剰だ。嬌声がいつもより甲高くて、法介の頭の芯を揺さぶる。足をさらに大きく開かして、より激しい律動が出来るよう、体制を立て直す。中に入れたまま動いたせいで、中の法介を感じてしまい成歩堂が口を噛み締める。中のローションのせいで、少しでも動くとぐちゅり、と厭らしい粘着質な音が響いた。
「あっ、はぁ……んッ!あッ、ぁ……」
 突き入れる度にその刺激が気持ちいいと成歩堂が声を弾ませる。その顔を上から覗き込み、横に向けて喘ぐ成歩堂の、曝されている首筋に視線が移る。みぬきと一緒に暮らす成歩堂に痕はつけれないが、その代わりのようにそこを舌で丹念に愛撫してやる。唇で軽く食み、口内に含んだ皮膚を執拗に舌で舐る。
「あぅっ!……ん……」
 敏感になっている身体はそれだけでも十分な愛撫で、ピクン、と成歩堂が戦慄く。
「ふぁっ……あ、ん!あぁぁッ!!」
 首を舐る傍らに、中の感じる所を法介が突く。間近に法介が居る前で、撥ねるように感じてしまった。
 羞恥に胸がかぁっと熱くなるが、それを解消する前に法介の動きに翻弄されてしまう。
 身体が蕩けるように熱い。すぐに快感が限界まで膨れ上がってしまう。
「ああぁぁぁっ……だ、めぇ……イク………っ!」
 その言葉が嘘ではないように、孤立した彼からも白濁としたものが零れてきた。そのまま絶頂を促すように、と法介は成歩堂を手で扱いて追詰めるように動きを早めた。それにビクン、と大きく反応を示し、絶頂感を誤魔化したいのか嫌々をするように頭を振る。ぱさり、と髪がシーツに当たる軽い音がした。
「あっ、あっ……どうしよ……イく、イっちゃうよ…ぉ……ッ!!」
 ああ、やっぱりいつもより感じてるんだ、と絶頂の予感に震える成歩堂を見て思う。
 時折中を掻き混ぜると、引き抜く時に自身に絡みついたローションが成歩堂の体内から零れ落ちる。それもあってか、カカオの芳香がさっきより一段と濃厚に薫る。
 チョコレートが甘いのは、砂糖やミルクを入れている為だ。それを入れなければチョコレート……カカオは酷く苦い。が、漂うこの香りはどうしても甘く感じられた。
 とても甘くて美味しそうな匂い。
「はぁ、…は……んっ……んんッ!」
 その発信源に、法介は思わず口付けていた。やっぱり、何だかいつもより甘いような気がする。
 それがもっと欲しくて、味わいたくてさっきとは真逆に法介が成歩堂の口内を弄る。
「んんッ!んっ、ん、んーっ!」
 成歩堂が感じると、甘みも強くなるみたいに感じられた。法介の口付けが深く激しくなっていく。身体の上から下から、濡れた水音が響く。
「ふぅ……うぅぅッ……!」
 もう限界だ、と成歩堂は法介の背に手を回し、その服を引っ掴む。ぎゅう、と強く自分の衣服を掴む手に、余裕の無さが窺えた。
 感じるポイントは手前の方にあるが、成歩堂は奥を抉られるのも好きだ。だから、感じる箇所に先端を擦り、そのまま奥へと突き入れていくと全身を震わせて感じる。
「んーッ!んん――――ッ!!」
 感じ過ぎる為か、息苦しいのか、きつく閉じられた眦から涙が零れる。早く楽にさせてあげようと、法介も律動を早める。成歩堂の前にも手を伸ばし、射精を促すように先端を詰った。
「ッ!――――――ッッ!!」
 快楽中枢に直に響く刺激に、最後の嬌声を法介の口内に送り込んで、成歩堂が果てる。熱を吐き出しきると、強張っていた身体が弛緩してシーツの上に力なく沈む。背にあった手も滑り落ちてしまった。
 そっと口を離すと、銀糸が唇を繋いだ。それが切れて成歩堂の口の横に落ちたのを、法介が舐め取った。呼吸が落ち着くようにと、宥めるように頭を撫でて軽いキスを繰り返す。呼吸の為に上下する胸が、息を吸うたび殆ど密着している法介の胸へと当たる。
 やや息の荒さが治まった頃、法介が自身の解放の為に腰を動かした。ぴく、と成歩堂が戦慄く。
「あっ!ぁ……んっ!」
 ローションから作用が齎されて、不自然に火照る身体は、相手を昂ぶらせるのが目的ではないその動きにも反応してみせた。喉を仰け反らすようにして、成歩堂が啼く。
(マズいな……)
 今の成歩堂は、大変美味しい身体にある。それはもう、色んな意味で。
 しかし明日、いや今日にはチョコ合宿からみぬきが帰ってくるのだ。勿論、その成果をパパへとあげる為に。だから、今日は程ほどにセーブしないと、と自制をかけているのだが。
「んぅっ……ん、あ、ぁッ!」
 さっきよりはさほど激しい動きでもないのだが、一度達したせいかその脱力感故に身体が敏感なようで、中をグラインドする度に艶かしい声が引っ切り無しに上がる。
 こんな声を聞かされると、またしたくなる……と、言うかすでにしたい。
 いやでも、ローションはまだあるし次の機会も必ずある!無理をさせたくないのは本意だ!と法介は必死に自分に言い聞かせた。そうしていたら、動きが緩やかになっていたのだろう。まだ脱力感の抜けない成歩堂に、容易く捕まってしまった。首に手を回され、ぐぃ、と引っ張られた。鼻先が成歩堂の肩に埋まる。ふわり、とまたカカオが香った。
 多分、今日はもうダメ、とか言われるんだろうなと法介は思っていたのだが。
 現実は。
「もっと……して?……身体、まだ熱ぃよ……」
 それは意図した訳でもないだろうが、はあ、と熱い吐息が法介にかかる。
「……………」
 同時に、内部も誘うようにまだ熱を吐き出す前の法介にひくりと絡み付いてきた。
 そして。
 それで引ける法介である訳がなく。結局、夜が明ける寸前くらいまで、ヤり続けてしまったという。
 みぬきが帰るまでに事務所には戻れたのだが、娘からのチョコを嬉しそうに受け取りながらも、どこか気だるそうな成歩堂に気づいているようなみぬきを、法介はすっ呆ける事にした。




<END>

我を忘れてもそれでも痕はつけないちゃっかりなホースケです。
ホースケは成歩堂さんの胸吸うのが好き、つーMY設定が生かしきれなかったのでその辺リベンジしたいと思いまーす。
あ、あと成歩堂さんに「法介」呼びさせるのも忘れてた!つーかキスなんかするから呼ばせれなかったじゃないかホースケよぉ!!