5.



 勿論、かりんとうの発砲先で仁王立ちしていたのは茜だった。手にはもちろん、かりんとうを持っていて。
「あ、茜さん!?真剣は話どうして居るんですか!!」
 心構えもなくもろに食らってしまった法介は、涙目になって額を押さえた。きっと、あたかも第3の目のようにくっきりと浮かび上がっているのだろう。かりんとうがぶつかった痕が。
「何よ!刑事のあたしが殺害現場に居ちゃ可笑しいっての!?だったら何処に居ろっていうの!?」
「だだだ、だって茜さん、この事件の担当じゃないでしょう!!」
 かりんとうを再び構えた茜に、法介は顔を防御しつつ反論した。
「そうよ。でも、あんた達のピンチのようだから、無理矢理割り込んだのよ!」
 えっへん、と茜が胸を反らして言い放った。
 みぬきは素直に感謝の言葉を上げているが、法介は思う。オレはここに居る捜査官一人一人に頭を下げねばならない責任と義務があるのだろうか、と。白衣の刑事に困惑の色を浮かべながら調査していく鑑識を見て、法介は思った。
「あら?そちらの方は?」
 茶紀を見つけた茜が窺う。それに、みぬきが説明をした。
「茶紀さんです。阿柴さんの友達で、一緒に調査してもらってます。絶対無罪だから、真相を見つけてくれって言って」
 それを聞いて、茜はへぇーと感嘆の声を漏らした。
「いいわねー。あたし、そういう友情ものにはちょっと弱いのよ。
 うん、訊きたい事があったら何でも言って!答えられる限りなんでも答えちゃう!!」
 色つき眼鏡を指で抱え、茜はニコッと言った。その後ろで、今の茜の発言に数名がオイオイ、と目を丸くしている。ごめんさいと法介は頭を下げたくなった。しかし今は情報が欲しいので、そんな良心の呵責は隅に置いといた。
「じゃあ、早速。本当の凶器って見つかりました?」
 みぬきがズバっと訊く。それに茜も、ズバッと答えた。
「残念だけど、まだね。おかげで現場の空気も微妙で、士気も中々上がらなくて」
 茜がふぅ、と溜息をつくが、その空気の原因は突然の乱入者(←茜)のせいではないだろうか。法介は思った。
「まあ、それでも刃渡りとか大きさは同じくらいの刃物ってのは確かみたいよ。さすがにそれくらいは調べたみたい」
 実際は違った訳だが。
「だったら、それに似た刃物を探せばいいんですね」
 とりあえずの目安が出来たので、見つけ易さも上がったような気がする。法介は前向きになった。
「あ、そういえば、牙琉検事が侵入者の有無を詳しく調べるって行ってましたけど、それの結果って出ました」
「それがね」
 と茜がにやりとした。多分、検事側に不利な証言だろうと法介は思った。
「証拠は無いけど、証言はあったのよ。この家から出た人を見たって人が」
「えっ!本当ですか」
 みぬきも驚く。
 法介の頭の中で、ギュワィーン!とエレキギターの不協和音をバックに頭を抱えて振る響也のイメージが出来た。
「見たっていうか、夜中だから顔までは見てないわ。けど、確かに人目憚るように足音を消して走っていた人影を見たって」
「目撃者って……それは誰なんですか」
 思わず、といった具合に茶紀が身を乗り出して言う。
「向かいの家の人よ。あっちの方に走っていくのを、家の中から見たって」
 あっち、と言って茜が指したのは法介達が来た方角だった。と、いう事は駅に向かったという事だろうか。
「昨日の調べで、その証言は出てこなかったんですか?」
 茶紀が引き続き言った。
「犯人が逮捕されたみたいだから、自分の証言は要らないだろう、ってわざわざ名乗り出てまで言おうとしなかったんだって」
 そして、こうなって改めて聞き込みに回り、そこで証言を聞いた、という訳だ。
「そういう流れだから、今の被告の無罪が確定したら、今度は被害者の婚約者を容疑者として調べていくみたい」
「――え、どうして?」
 法介は首をかしげる。
「今の所状況証拠だけだけどね。でも、家族に知られずに入るには合鍵を使うしかないわ。家族以外で持ち合わせているのは婚約者だけ。
 そして、被害者の傷。胸への致命傷以外に傷は見られない――つまり、もみ合った様子も無く、被害者は無防備に向かい合っている所を突然刺されたって事ね。夜中に突然やって来て、被害者が怪しんだり警戒もしないで向かい入れる相手なんて、婚約者しか居ないんじゃない?」
 確かに筋が通っているな、と法介は納得した。
「いや、それはどうだろう」
 この場に、強い響きの声が全員の耳に入る。それくらい、力強い声だった。特に荒げているという訳でもないのに、よく響く声だ。
 それは、茶紀の声だった。
「婚約者が犯人だとしたら、犯行の手順が無茶苦茶過ぎる。
 深夜、家族が揃っている相手の家に押しかけて、殺してそのまま退散なんて支離滅裂もいい所だ。この時間のこの場所である必然性が、まるで見受けられない。
 第一、凶器が見つからないまま他の誰かを立件しても、今日の裁判と同じ目に遭うだけだと思うけど」
 茶紀はそこまでを、一気に言った。そして、息をすぅ、と吸って。
「何か、異議は」
 はっきりとした発音で言う。
「……あ、ありません」
 茜が呟く。
「……凄い。なんだか、オドロキさんより弁護士っぽかったですよ、茶紀さん!」
 拳を固めて、熱っぽく言うみぬきの声に茶紀ははっとなったようだった。
「あー……まあ、知り合いに検事が居るからね。なんとなく、ね」
 あははは、と照れ臭そうに笑う茶紀だが、何となくで今ほどの弁護をやられちゃたまらないな、と法介が影を作っている。
「もういっそ、茶紀さんが阿柴さんの弁護をやっちゃえばいいじゃないですか。大丈夫、みぬき、そういう超法的処理が得意な人知ってますから」
 賄賂はトノサマンカードでいいだろう、とみぬきは画策した。
 意気込んで言うみぬきに、茶紀は困ったように手を振った。
「そんな訳にはいかないって。阿柴の弁護はオドロキさんにやってもらわなくちゃ。
 ――ところで、家族の部屋って見てもいいですか?」
「ああ、はい。どうぞ」
 すっかり面食らった茜は、思わず敬語で受け答えた。実際、茶紀は茜より年上だろう。
 茜に許しを貰い、一同は2階へと上がる。1階が居間や客室等があり、2階がそれぞれのプライベートルームとなっている。2階に上がるには勿論階段を登らなければならない。真ん中からやや下くらいから血染めになっている階段を、法介は顔を引き攣らせながら登った。


 2階には部屋が3つ。阿柴、姉、両親それぞれの部屋で、両親が1.5部屋分くらいのスペースだった。あとは物置のような小さい部屋が1つ。
 阿柴の部屋も、彼が独り立ちしてからは物置のような扱いだったのだろう。壁際には日用品の箱が積み重なっている。敷かれた布団はそのままだった。
「凶器は、この家の物だったんでしょうか?」
 みぬきが訊いた。おそらく、本当の凶器の事だろう。
「多分、ね」
 と答えたのは茶紀だった。
「阿柴はおそらく――巻き込まれたんだと思う。そして、状況が自分に不利だというのも、その場で判った。だから、こんなやり方を取ったんだ」
 さっきの通る声での主張とは違い、呟くような声だった。
「あれ、それだったら婚約者犯人説でも通るんじゃないですか?」
 法介が浮かんだ疑問をすぐに口にした。思った事は何でも言うに限る、と彼は最近の法廷で学んだ。
 法介の言葉に、茶紀はまず首を振った。
「逮捕の決め手になったのは母親の証言と、それを裏付ける指紋着きの凶器だ。凶器の偽装は、キッチンからナイフを持って来て転がせばいい。でも、それだと誰の指紋がついているのか、犯人も阿柴も判らない。当然、自分が不利とも判らない」
「じゃあ、偽装は阿柴さんがしたって事で結論してもいいんですか?」
 今度の法介の問いには、茶紀は頷いた。
「そうしなければ、もっと自分の立場が危うくなる――そんな状況だったんだよ」
 具体的には判らないけど、と付け加えた。
「……さて、次の部屋に移ろうか。ここには、あまり手がかりが無いみたいだ」
 散らかさないように部屋を漁っていた茶紀が、場を仕切りなおすように言った。
 その行動やさっきの言動を見ると、やはりどことなく弁護士を彷彿する。弁護士ではなくても、こういう事件を扱う職種についているような雰囲気がある。類は友を呼ぶというか、同類は何となく肌で感じれるものだ。言う発言も、やはりみぬきとは何か違うものを感じる。
(……成歩堂さんと捜査したら、こんな感じなのかなぁ)
 そんな事を思いながら、法介は廊下を歩く。以前、冗談めかして司法試験を受けようかな、という発言が出たきり、まだ彼は弁護士に復帰していない。司法新制度の委員長になれるくらいの実権やコネがあるのなら、弁護士に返り咲くくらい軽いと思うのに。
 しかし、成歩堂が弁護士となったとして、自分は彼を先生と呼ぶのだろうか。はたまた、後輩として接するべきのだろうか。
 どっちにしろ地味に頭を悩ます法介だった。
 次に入ったのは阿柴の姉、つまり被害者の部屋だ。殆ど物置同然だった阿柴の部屋とは違い、生活感に満ち溢れている部屋だった。カーテンとベットの色調が合っている、中々センスのいい部屋だ。
 本棚を見ればその人が判る、と聞いた事がある。法介は、まず本棚を見てみた。
 職業に関わる書籍や、今話題となっているベストセラー。少女もののコミックも少々あり、趣味の実用書がある。それで判断すると、被害者はお菓子作りが趣味のようだった。そのジャンルが一番多い。部屋を調べていくと、そういう教室に通っているらしく器具一式が部屋に置かれていた。ハンドミキサーや温度計。計量カップと計量スプーン、おろし金やバーナーもあった。ナイフも、ケーキ用とパン用のものがある。
「あれ……?」
 と、みぬきが一式のセットを見て呟く。
「ここ、不自然に空いてますよね?まるで何かが入っていたみたいな」
 みぬきが指した所は、近辺にナイフが収まっていた場所だ。普通に考えるなら、ナイフがあったと予想する。3人は、思わず顔を見合わせた。
 おそらく、3人とも同じことを思っている。――今この場所に収まっていないナイフが、本当の凶器では無いのか。
「――もっと探してみよう」
 法介の声に、2人は本格的に部屋を探し始めた。さっきの阿柴の部屋とは違い、家具の置いてあるこの部屋は探すべき隙間やスペースも多い。そこを探すのに、小柄で華奢なみぬきは大いに活躍した。大抵の隙間にその細い腕は楽々入ってくれる。
「ん?」
 ベットの足の裏。それの影みたくなっているが、確かにそこに何かがある。みぬきは手を伸ばし、掴んだ。こういう時、常に手袋をはめていると便利だ、とか思いながら。
 手触りは固くも無く柔ら無くも無い。強いて言えば固いゴムみたいな感じだろうか。埃が無い所を見ると、最近落ちたのだろうか。こんな所に、落とすのも難しいと思うけど。
「みぬきちゃん?何かみつけたの?」
 体の大半をベットの下に潜り込ませたままのみぬきに、法介が声をかけた。
「――これ、何でしょうか?」
 取り出したものの、みぬきも判断が出来なかった。
 黒い固いゴムで出来ている、長方形の端を丸くしたモノを半分に切ったもの――と、無理矢理表現すればそんなものだった。真っ直ぐの断面には亀裂が入っていて、薄い物をはめ込めそうな感じだ。
「ナイフのカバー……?」
 と、法介は呟いていた。もう1本ナイフがこの部屋にあったのではないか、という考えが頭にあったからもあるが、法介が1人暮らしを始める際、色々日用品を吟味していた時に、こんなカバーをつけていたナイフを見たような覚えがあった。
 それを、さっきの気になるスペースに置いてみた。無理矢理でもなく、空きが多すぎるでもない。
 やはり、ここにはもう1本ナイフがあった。しかし、カバーしかこの部屋からは見つからない。
 念のため、両親の部屋を調べつくした。やはり、このカバーと合うナイフは見つからない。キッチンに置かれている刃物も、合う物は無かった。
 カバーだけを残して紛失したナイフ。
「やっぱり、これが本当の凶器でしょうか」
 みぬきが手にしたカバーと凝視して言う。
「今の所、それ以上の有力な候補は無いね。
 ――でも、凶器が被害者の部屋にあったとして、なんで殺害現場は階段なんだ?ナイフを見つけたら、そのまま刺さないかな」
「逃げたから追いかけたとかじゃないですか?」
「いや、それなら背後から刺された事になるだろう?あれはどう見ても、前からの傷だよ」
「うーん……だったら、隠し持ってた?そして前に立った所をブスリ」
「むき出しのナイフを?隠し持つんだったら、オレならカバーをつけたまま持ち歩くよ。むき出しだと持ってるのも危ないじゃないか」
「そんな事言われても、カバーはあの場所に転がってたんですから仕方ないじゃないですか!みぬきに文句言わないでください!」
「お、怒るなよオレに!」
「――まあ、その辺はちょっと置いといてさ。今は凶器の場所に焦点を絞って考えようよ」
 ね、と結論の出ない論議に燻り始めた2人に、茶紀が話題の矛先を変えた。その時、法介は自分が冷静さを欠いていた事に気づき、ばつが悪そうに頭をかいた。
「じゃあ、まず、阿柴がどうやってここから持ち出したか問題だな。これが判れば凶器のある場所も判ると思う」
「うん、そうですね」
 みぬきが頷く。
「今現在も阿柴さんが持ってる、なんて事は無いでしょうか。パパがいつか、そんな事件があったような事を言ってました」
「それってサーカスの事件の事?あれは容疑者じゃなかったから持てたんだと思うよ。それに、留置所に入る時に身体検査するんだから、そんなもの持ってたら一発でバレるって」
「どうしてオドロキさんの方がパパの事件に詳しいんですか!」
「そりゃオレが弁護士だからだよ」
「みぬきがパパの娘なんです!!」
「知ってるよ」
 段々論点が逸れ始めた危険を感じ、法介は軌道修正に入った。
「まあ、来る時に話したように、殺害から発見まで30分の時間がある。その間で出来る事……か」
「外に出たとしたら、片道で15分の範囲だね。まあ、それもあくまで最大の仮定で、実際はもっと時間が無かったと思うけど」
 茶紀が考えながら呟いた。
「あ、じゃあ、走って行った人影って、もしかして阿柴さ……」
 そこまで言いかけて、法介がはっと口を閉ざした。周りには、まだ警察が居るのだ。うかつに阿柴に不利な発言は出来ない。
「それじゃ、外に捨てに行ったんでしょうか」
「……捨てるによさそうな川とかも見られなかったと思うけど……排水溝ならあったかな」
 みぬきの言葉を受けて、法介はここへ来た時の道中を記憶の中で辿ってみた。丁度、阿柴が走ったと思われる方向と同じ事もあるし。
 確かにその先には駅はあるが、あそこまで往復するだけで制限時間一杯だ。隠したり捨てたりする時間があったとも思えない。
 他には庭の広い家ばかりだ。そのほかと言えば、郵便ポストくらいだろうか。
「……阿柴はとにかく、裁判は3日しかない、っていうのを逆手に取っている。その辺を踏まえるといいかもしれない」
 茶紀がアドバイスのように言った。
(……そうだな。無罪判決になれば、その後に凶器が出て来てももうあの人は裁けない……)
 たった数日間だけ、捜査線上に上がらなければいいのだ。
 それはどんな場所か。人の庭先か。いや、見覚えの無いナイフがあれば誰だってその場ですぐ届けるだろう。近くに事件があったのならなお更に。
 カバーを見て判断すれば、ナイフ自体もそう大きいものではない。この家のどこかに紛れ込ませる事も可能だろうか。
 2階の目ぼしい所はたった今自分たちが探してきたばかりだ。だとしたら、1階……あるいは、このすぐ近辺。
「理想としては、知らない誰かが勝手に何処かに持って行ってくれる、ってのが一番だよね」
 推理に捕らわれて、黙り込む2人の横で茶紀が不意にそんな事を言った。
 ――そんな都合のいい事なんてありませんよ
 法介はそう言おうとして、口に出す直前に、閃いた。
 あったのだ。そんな、都合のいい事が。しかも、それを自分はすでに見ている。
「……郵便ポスト」
 法介は呟くように言った。
「え?ポストに隠したんですか?でもそれなら、次の日郵便屋さんが手紙出す時に見つかっちゃいますよ」
 みぬきの言う事に、法介はゆっくり首を振った。
「違うよ。輸送したんだよ、凶器を。そう、多分自分の家に。
 あのナイフなら大きめの封筒に楽に入る。梱包を厳重にすれば、中にナイフが入ってるとも思われない。警察も、郵便物を勝手に調べたりはしないだろうしね」
「――阿柴にそういう事が出来る準備はあったのかな」
 自分の考えを述べる法介に、茶紀が至極冷静に異議を飛ばした。法介はこっくり頷いて。
「その次の日、自宅から直接仕事場へ向かうつもりだったようで、仕事具一式を持っての里帰りだったみたいです。アタッシュケースには、レターセットもありました。サイズの大きい封筒も。十分、可能だと思います。梱包の材料はあるものを適当に使えばいいし」
「……………」
 茶紀は沈黙し、目を閉じてゆっくり息を吐いた。
「……阿柴の部屋に行く必要があるね。今の考えが正しいなら、凶器はもう着いてるかもしれない」
 投函の日を考えればすでに輸送されている確率の方が高そうだ。
「家は横浜ですよね。今から行けば、大丈夫ですよ」
 みぬきが力強く言う。それに法介は頷いた。
「それじゃ、さっそく――」
「あー、居た居た!もう帰っちゃったかと思った」
 突然茜の声が飛び込んできて、3人は同時にギクリとなった。何せ、今から本当の凶器の場所へと行こうとしていた所なのだから。
「あ、茜さん!何かあったんですか?」
 あはは、あはは、と白々しいくらいの笑みで法介が応対する。茜は特にそれに気にするでもなかった。
「今からね、被害者の解剖し直すらしいけど、一緒に見に行かない?」
 まるでランチにでも誘うようなノリで言う茜だった。
「か、解剖ですか」
「うん。傷口のより詳しい検証とかね。凄いのよー、傷口だけでも、どんな体格の人がどう殺したかが判っちゃうんだから!!」
 妙齢の女性が目を輝かせて言う内容では無いな、と法介は思った。
「どうしましょう。これは行っておくべきですよね」
「仕方無い二手に分かれるとしよう」
 茶紀が妥当な判断を下す。
「じゃ、オドロキさんは解剖に行ってきて下さい。みぬき達は阿柴さんの家に行ってきますので」
 絶対観光してくるつもりだな。ウキウキしているみぬきを見て、法介は直感した。しかし、それが判っても異議を言えないのが法介だった。言った所で却下以外の道は無い。
「それじゃ、事務所で落ち合いましょう。時間はいつになるか判らないので、早く着いた方が待機、という事で」
 みぬきがてきぱきと指示を下し、それでは行って来ますね!と茶紀を連れ立って現場から立ち去った。
「あれ。みぬきちゃん達は帰っちゃうの?」
「え、ええ。15の女の子は色々予定があるそうで」
 法介は適当な事を言って誤魔化そうとした。そうね、と相槌を打った茜は自分の過去をしみじみと語り始める。
「あたしも15の時は色々あったわ。ついたら落ちない液を自己開発したり、FBI事件捜査ファイルをチェックしたり……」
 法介はそんな特殊な例をあたかも一般的な事例としてあげないで貰いたいと思った。下手に純朴な男子が聞くと、妙な女性不審に陥りそうだ。
「あとはお年玉はたいてクロロホルムを買ったり……」
「茜さん、そろそろ行きましょうよ」
 ひらすら続きそうな思い出話に、法介はストップをかける。何気に聞き捨てなら無い内容が聞こえたかもしれないが、今は捜査を優先させた法介だった。




***

横浜の検事にしたのはワタシが横浜が好きだからです!
ビバ身勝手!!

ちなみにこの所のトリックは虎の人とチャットして決めました。いーつもすまないねぇー(ヨボヨボ)