2.



「お……おデコくん。どうして君がそんなに一番驚いているんだい?」
 汗を流して机に凭れる響也のダメージの原因は、被告の突然の無罪発言だろうか、あるいは法介のバカでかい声によるものだろうか。
 隣に居てもっとも被害を受けたであろうみぬきは、ちゃっかり耳栓をしてやり過していた。被告が異議を飛ばし、声も無く瞠目しまくっている法介を見た時から準備をしていたようだ。抜かりない!
 法廷内は、ざわめきで埋め尽くされた。あまりのざわめきで、声には聴こえないくらいだ。
「静粛に!静粛に!!」
 裁判長が、すかさず木槌を叩き場を諫める。
「被告人!今の発言は、本当ですか」
「私も検事です。この場がどういう所なのかは、弁えています」
 つまり、事実だと言いたいらしい。
「ちょっと待ちなよ!」
 ダン!と壁を叩いて響也が会話の主導権を握る。
「それが本当だと言うなら、どうして調査の時にそう言わなかったんだい?それに、そこに居るおデコくんの反応だと、弁護士である彼にすら言ってなかったように見えるけど?」
「お……オレ、今しちゃいけない事してなのか?」
「うーん、そうかもしれませんねー」
 法介に慰めないで追い討ちをかけるみぬきだった。
 そして阿柴と言えば、落ち着いた様子で響也の異議に答えて言った。
「言ったばかりですよ。私も検事です。警察の取調べがどういうものか、重々承知です。犯人と決め付けた容疑者の無罪なんて、戯言として一蹴されてしまう……それなら、事実を上げるこの場で発言した方が、私の主張は取り上げてもらえる」
「あ、上手い事言ってますね。多分、今の発言裁判長の心象良くしましたよ」
 みぬきがこそっと法介に言う。
 裁判長は、こほん、と軽い咳払いをした。ちょっと、誇らしげに。
「ええ、勿論。ここは裁きの庭ですからね。証言は全て攫い、検討し尽します。そうでなくては判決は下せない」
「仰るとおりです」
 今の阿柴の発言に、裁判長がますます胸をそらしたような気がした。
「そして、弁護士に何も言わなかったのは――」
 と、言いつつ阿柴は法介をちらりと見た。
「来たのが、あまりにも頼りない弁護士だったので。自分から言い出したものの、果たして無罪判決を勝ち取れるのだろうかと不安になたからです。替え様にも、時間がもう無かったもので」
「確かに。そこの弁護士には度々如何なものか、という発言が数多く見受けられましたからね。そう、初めて見た時から」
(オーイー!)
 あっさり断言してくれた裁判長に、法介は異議いっぱいになった。
「突然の申し出に場を混乱させてしまった非礼は詫びますが、私は無罪です。それは、確かです」
「異議あり!だったら、凶器については!?これには、指紋がばっちりついているよ。勿論被告以外の誰かが、手袋やタオルの上から握った形跡も無い」
「その事ですが」
 確たる証拠を響也に突きつけられながらも、彼は依然として平然とした姿を変えなかった。
(っていうか、誰と誰が戦ってんだよ!)
 なんだか、法介はすっかり蚊帳の外である。どっちに反論しようにも、その材料を何も持ち合わせていなかった。
「傷は致命傷となった胸への1つだけだそうですね。しかし、今牙琉検事が言ったように、私以外の誰もこれに触れていないのなら、このナイフは凶器ではないという事です。
 そして、凶器ではない事が認められたら、私は無罪になる。――いいですか?牙琉検事」
「………。そうなる、かな」
 平静を保っているが、響也に内心焦りが走り始めたのを、法介は腕輪で感じていた。
「ではさっそく。傷口との照合及び、このナイフについての精密調査をお願いします。どうせ、指紋くらいしか取ってないでしょうから」
 だから自分が被告になんてなったのだ、と阿柴は響也に対し、挑発的に言った。それはわざとだな、と法介は思った。響也はうろたえる所に着きこまれると、多分弱い。コンサートでギターが燃えた後、いきなりただの観客だった自分を容疑者にしたくらいだ。冷静を欠くのだろう。
 響也は、ゆっくりと1つ、深呼吸をした。
「……オーケイ。それじゃ、そっちの主張する通り、調べてみようか。
 時間がかかるだろうから、早いけどここで一度休憩――」
「待った――!!」
 響也のセリフを遮るように、突然待ったがかかった。
 今度は何処の誰だよ、と法介が声の方を見ると、刑事の茜が居た。
「刑事くん。どうしてここに?」
 響也が少し驚いたように言う。茜は今回の担当刑事ではないのだ。居合わせる必要は全く無い。
「オドロキくんの裁判だっていうから、成歩堂さんも居るんじゃないかなーって来てみたんだけど、居ないじゃない!ちょっと!どうなってるの!」
「知りませんよ!オレだって会いたいですよ!なのに居ないんですよ!カリントウ投げないで下さい!」
「弁護人。人恋しいのなら、本人に直接言いなさい」
 言えたら言ってるよ!!と法介は誰にも見られないように血涙を流した。
「だからもう帰ろうかなとか思ったんだけど……何だか、科学の力が要るっぽいじゃない?要るの?要るんでしょ、ほらほら!さっさとしなさいよ!」
「ああ、茜さんの目が輝いてます……」
「もう、誰も止められないね、これは……」
 温い目で見守る中、茜は響也から凶器をもぎ取ろうとしていた。これはちょっとした法廷侮辱罪にはならないのだろうか。と、いうか完全なカツアゲだ。
 響也は、この突然の申し出にまあ折角だから……と茜に凶器の検査をお願いした。いい人だ。
「ふんふん。このナイフが人体に刺さったかそうじゃないかを確かめるのね。そんなの、富士山に登るより簡単よ!」
 それに比べれば大分簡単な事は多いと思う。まあ、その検査がどれくらい難解かを法介は知らないので、その突っ込みはそっと胸の奥に仕舞った。
 そして、それから約10分をかけて。あんな器具やらこんな薬やらを取り出して、爛々とした目の茜は凶器を検査していった。
 ふぅ、と茜は満足そうに息をつき、かけていた色つき眼鏡を額に戻す。
「そこの被告人さんの主張は正しいわ。このナイフには、人体を切った形跡は無い。そして、それを消した痕跡も無い」
「え、って事は凶器じゃ……」
「ないわね」
 尻すぼみに消えていく法介のセリフを、茜が繋いだ。
 茜がきっぱり断言すると傍聴席がさっきのように騒ぎ出す。
 開廷15分で、完全有罪だと思っていた被告人の無罪が決定したようなものだ。こんな速決な逆転劇は、見た事が無い。成歩堂だって2日は青い顔して冷や汗流しながら証明してきたというのに。
「静粛に!静粛に!」
 裁判長が再び木槌を叩くが、この衝撃は中々冷めないようだ。裁判長の木槌が3回、4回と続く。
 その中で法介は、こっそり被告の両親の反応を窺った。
 見ると――2人とも、顔色はそれを無くしたように青ざめていた。
「……………」
「? オドロキさん?」
「え、どうかした?」
 急に声をかけられ、法介は慌ててみぬきを見やる。
「どうかしたのは、オドロキさんの方じゃないんですか?」
「何気に失礼だよ、その発言は」
「それよりも」
 流された、と法介は自分のツッコミを諦めた。
「この裁判、どうなるんですか?阿柴さんは、無罪なんですか?」
「う、うーん………」
 法介は考える。彼は、無罪なのだろうか。
 確かに、凶器ではなかったあの証拠品は、彼の無罪を表している。まだ裁判員制度がシミュレーションで実践にまでは及ばない今、凶器との確固たる繋がりの証明出来ない被告人は、果てしなく黒に近くでも白となってしまう。法介は、霧人の2度目の審理を思い出していた。
 別に法介は、自分に無罪を訴えてくれなかったという理由で彼を信じない訳ではない。
 理由は、他にある。
(あの人は、嘘はついてはいないかもしれないけど、何かを隠している)
 これはもう、腕輪にすら頼らないただの直感だった。その源を尋ねられても、法介は答えられない。
 もし本当に、彼が隠し事があったとして、それは何故なのか。
 それは、犯人だからじゃないのか――?
 法介は、その考えを払拭出来なかった。
「い、異議あり!」
 焦りの汗を浮かべた響也が、異議を飛ばす。
「……どうやら手違いがあったようだ。再捜査の依頼を今から下すから、審理は明日に持ち越し……」
「異議あり。この裁判は、そこの凶器に私の指紋がついていたからという前提で起こされたものでは無いのですか。だとしたら、それが死因と関係無い、凶器では無いととはっきりした今、さっさと釈放を願いたいのですがね」
「…………っ」
 澱みなく告げる阿柴の反論に、響也は押し黙ってしまった。
「でも、目撃証言が……」
「母の証言はあくまで「胸から血を流していた被害者の前に、私が傍で立っていた所を見た」という事だけです。刺した場面を直接見た訳じゃない。
 ――物音がして何事かと降りてみたら姉が倒れていて、様子を見る為に近づいた。そして、血が流れているのを確認した時、後ろで母の悲鳴を聞いた。これが、私の主張する証言ですが、何か異論は」
「…………………」
 響也は歯軋りをし、ダン!と1回机を叩いた。反論が浮かばないらしい。
 現在凶器として提示された証拠品が、凶器では無いと証明されたとなっては、響也にとってかなり不利な状況だ。彼が被告にとなった所以は、凶器と思しきナイフに指紋がついていたからのだから。それが否定されたら、そのまま被告という肩書きも消える。
「裁判長」
 阿柴が言う。ざわめきを、モーゼの十戒のように切り分けて。
「これ以上の議論はもう無駄だと思います。判決を下してください」
「ふむ………」
 裁判長が小さく頷く。
「オドロキさん!判決出ちゃいそうですよ」
 みぬきが法介に言う。
「う、うーん……」
 法介はさっきと全く同じように呻くだけだった。
 状況としては、法介にはかなり都合のいい展開だ。少々無能呼ばわりされたが、それに目を瞑れば大した労もなく無罪判決を勝ち取れる。
 弁護士として、無罪は白星なのかもしれないが、法介はそうじゃないと思う。
 勝ちとか負けとかじゃない。もっと言えば、有罪や無罪でもなく。そのその向こうにある、真実を見つけたい。
 ここで判決を受けてしまうと、その真実は闇に葬られ、2度と出てこないかもしれない。
 それは、弁護士・王泥喜法介にとって許せない事ではないのか。法介は無意識に、胸の弁護士バッジに触れていた。
「確かに――被告の言う通りかもしれませんな。凶器が無い以上、貴方はに有罪を下ろす事は出来ません」
(――ヤバい!)
 法介は焦った。
 思わず思ってしまったそれが、本心だ。
 このままではいけない。終わってはならない。こんなのは、ダメだ。
(ええい!ままよ!)
「異議あり!!!!!」
 法介は、思いっきり叫んだ。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……一体、何でしょうか。この、耳に痛いくらいの沈黙は……」
 検事も被告も助手も弁護士も傍聴席も皆黙っている。それに耐えかねた裁判長が、口を開いた。
「弁護人。一体今の異議は何に対しての異議でしょうか」
「え、えーと……」
 確かに、今の異議ありは普通の弁護士にはあるまじき行為だが、この王泥喜法介にとっては当然の事だ!……と、言った所で響也のエアギターを貰うのが関の山だろう。何か気の利いた意見を言えなければ。
「えーと、その、あの、うーん、つまり、そのー」
「オドロキさん、頑張って!」
 横でみぬきが拳を作って応援してくれる。応援しかしてくれないらしい。
「だからですねー……」
「……なるほど、」
 と呟いたのは響也だった。その横で茜が「え、成歩堂さん!?何処よ何処よ!」と周囲をきょろきょろする。勿論居る筈がないので、後で響也がカリントウを食らうのは必須だな、と法介は思った。
 カツン!!
 何故か間の空間を乗り越え、法介に投げられた。何故か。
「どうやらそこの弁護士クンは、この場で即行に施された検査に不満があるようだ……信憑性が薄いってね」
「何だってぇ!?あんた、ルミノール検査薬、浴びてみる!?」
「怯える必要も無さそうなのに、怖い!!」
 法介は戦いた。
「………。これ以上、そのナイフについて何を調べるというんですか?」
 阿柴が静かに言う。しかし、その声には若干怒りや苛立ちのようなものが含まれているような気がした。
「そうだね、例えば……真犯人の痕跡、とか?」
「…………」
 実は響也はかまをかけてみた。今の発言に「そんなものは無い」とか断言したら、そこを突くつもりだったのだ。何故そんな断言が出来るか。それは、彼こそが犯人であるから。そういう流れで。
 しかし、彼は何も言わなかった。それが計算の上でか、本当に無罪であるからなのかは、響也には判らなかった。
「そこのおデコくんはなかなかの職務熱心でね。被告の潔癖を完全に立証する為に、裁判では一々真犯人を挙げないと気がすまないんだ。確か、王泥喜は完璧をもってよしをするとか言ってたよね?」
「え……えぇ、はい!言ってます!今日もそう言って発声練習してました!」
 響也は裁判を引き伸ばして捜査のやり直しをしたいのだ。それを判って、法介も乗る事にした。
「フッ……暑苦しい弁護のおデコくん……嫌いじゃないね」
(……牙琉検事って、いざという時はまるっきり暗記に頼るタイプなんだなぁ……)
 端々に先輩検事の影がちらつく響也に、みぬきは温い目でそれを見抜いた。その内、お辞儀でもするかもしれない。
「ふむ。確かに、飛び入りの刑事の持ち合わせの検査結果では、判断を下しかねますな」
 さっきは被告の言う通りとか言ってたくせに。
 相変わらず突っ込み所の多い爺さんだが、今はこのボケっぷりに感謝せねばなるまい。
 そして、裁判長の判断が下る。
「本法廷では、現段階で判決を下す事は出来ません。検事・弁護側にはさらなる調査を命じます」
 カツン、と今日最後の木槌がなる。
「以上!」


 人の多い中で、法介は阿柴の姿を探していた。後で留置所でも会えるけども。いや、法介も今彼に会って何を言いたいのか、あまり判っては居なかった。ただ、それでも何か言わないとならないような気がして。
 平均よりやや高い身長の彼だが、しかし法介は彼を高さではなく色彩で見つけた。あれだけの完全に黒い服装は、そう居ない。
「あ――」
「夢!」
 しかし、法介より先に彼の母親が声をかけた。法介は、計らずとも親子の会話を聞く場面に遭遇してしまった。
 だが、その場を引いたりしなかった。聞いておくべきだ。何かが囁く。
「何でしょうか」
 相手は母親だというのに、阿柴は妙に他人行儀に返事をした。これなら、さっきの響也とのやり取りの方がまだ人間味があるように思えたくらいだ。
「あの――貴方、犯人じゃ無いって――」
 母親の心の揺れが、腕輪を使う事無く手に取るように判る。
 彼女は娘を失った悲しみにくれていたとは言え、息子の無罪をまるで信じていなかった。
 これっぽっちも。
 可能性の欠片ほども。
 それが、可決のような形で無罪を証明したのだ。この現実を、あの母親はどう受け止めるのだろう。法介がこの場から去らなかった理由は、それへの関心かもしれない。
「ええ、そうですよ」
 何の感情も無い声だった。まるで、機械で作ったような。法介の位置から彼の顔は見れないが、おそらく今まで浮かべていたような、証明写真でも撮るような顔をしているのだろう。何の感情も表さない顔。
「ほ、本当なの?」
「本当ですよ」
「どうして?」
「何がですか」
「だって、あの時、そんな事は一言も――」
「もしあの時、私はやっていないと言ったとして、」
 阿柴が初めて一言以上言葉を発した。
「その後来た警察に、貴方はこう告げたでしょうね。『あの子は混乱しています。自分のした事が解っていないんです』」
「………ッ!」
 息を飲む音が、聴こえたようだった。
「それを刑事が聞いて、この裁判でそれを証言されたら、あの土壇場の無罪発言も疑わしくなる。だから、言わなかったんですよ」
「違う、でしょ……?」
 震える声で、母親が呟く。
「私の事、信用して無いから言わなかったんでしょう!?どうして、そう……いつも!いつもいつも!
 私は貴方の力になりたいのに、貴方の為を思っても、何を言っても無視して、言う事をきかないで!!
 今だって、私達の事をバカにしてるんでしょう!?」
 いっそ耳を塞ぎたくなるようなヒステリックな声が法介の鼓膜を刺激する。しかし、それを間近に向けられている本人は平坦とした態度のままだった。
「私も息子であると同時に一人の人間ですから、親と言えども譲れない事もあるんです。全部に従える訳じゃない」
「夢。こんな時に茶化すんじゃない!どうしてお前はいつもそうなんだ!?真面目に話そうとする気は無いのか!」
 そう叱咤したのは父親だった。
「………。無視すると怒られて、何か言えばそうやって怒鳴られてますね。私は。毎回」
 ついでに茶化してる訳でもありません、と阿柴は付け加えた。
「それは判らない事ばかり言うからだ!こっちが聞いてやろうとしているのに、お前ときたら……!」
「……………」
 阿柴がふぃ、と目をそらしたのだと言う事が、法介は頭の僅かな動きで察した。
(あ。会話するの諦めたな……)
 法介は、その仕草で阿柴の心情を少しだけ垣間見た。
 このやり取りは、殺人事件の裁判という特殊な環境が齎す激昂故ではなく、いつもこんな具合だったのではないだろうか、と法介は思った。だからどう言われても、怒鳴られても阿柴は反論もしなければ哀しんだりもしないのだ。過去の経験で、しても無駄だと知っているから。
「………。昔、姉さんが私に突き飛ばされて、階段から落ちた事があったでしょう」
 突然、何故か阿柴がそんな事を言い出した。他にこんな事が無かったのなら、昨日法介が聞いたのと同じ事だろう。
 阿柴が姉にオモチャを寄越せと強請って、それを断られた腹いせに突き飛ばした。そんな内容だった。
「あれ、姉さんが自分から落ちたんですよ。私から小遣いを取れなくて」
「!?………」
 ここでも、阿柴は自分の置かれた立場と真逆の事を言った。両親の顔に、何を言っているんだ、と怪訝そうな驚愕が走る。
「……何を、訳の判らない事言ってるの?どうして、光がそんな事をするの」
「そのまま苛立ちのままに私を突き落としたら、その後の彼女と私の立場は今と入れ替わっていたでしょうね。だからじゃないですか」
 阿柴は訴える訳でも無く、むしろさほど興味も無さそうにどうでもいいように言った。それは、彼女がもう死んだからというからでも無さそうだった。
(今の阿柴さんの言う通りが本当だとしたら……)
 文字通り、捨て身の攻撃。だからこそ、その効果は絶大だった。
 確かその時、光は10歳だと言って居た。そんな子が、こんな狡猾な手段を取るとは思わなかったのだろうか。自分の子供だから、フィルターでもかかったのだろうか。
「別に信じてくれなくてもいいですよ。それでも、事実に変わりはありませんから
 信じようが信じまいが、それが事実に影響する事は無りませんしね。思いたい人はそう思っていればいい」
 そのセリフが。
 法介は、自分にも言われた事だと、思った。



***

人体に貫通した痕跡云々の検査はフィクションですから。そんなのあるかどうか知らんから、ひょっとしたらあるかもしれん。