Lost Word.



 がやがやと報道陣が1人の人物を中心に囲う。その台風の目となっている人物はいい加減群がるリポーター達にうんざりしたのか、執拗に繰り出される質問の1つを答えた。
「阿柴検事は以前弁護士だったそうですね?真逆の転身には何か理由があったのですか?」
「理由――ですか」
 口に触れるか触れないかのギリギリに突き出されたマイクに、彼は答える。
「人なんてものは、生きているだけで罪深い生き物なんですよ。何もしないでも誰かの恨みを勝手に買ってしまう。
 それを、冤罪かけられて慌てて自覚するような、そんな輩の面倒を見るのが嫌になっただけです。貴方も誰かの不幸の種にならないように。もしそうなったら――」
 阿柴と呼ばれた検事がここまで言葉を紡いだ時、あれだけ騒がしかった報道陣はシンと黙りこくっていた。その威圧感に圧されてて。
「もしそうなったら――私は貴方を確実に有罪にしますよ」
 それは自分の能力を、過信している訳でも無く打倒に判断しているという訳でも無さそうで。
 それが揺るがない事実なのだと、眼鏡の奥から鋭い視線でカメラを射抜いた。


(やれやれ、またしても大変な裁判になりそうだな……)
 その裁判を明日に控え、法介は資料として貰ったテープを事務所で見ていた。他には誰も居ない。
 ここの住人達はそれぞれの仕事に行ってしまっている。それなら、法介も帰るべきなのだろうが成歩堂が、
「ここなら法律関係の本も多いし、明日の為に色々支度するのに都合がいいと思うよ」
 と、言われ、それじゃあ、とお言葉に甘えているわけだ。確かにその申し出はありがたい。どこまで自分の身になれるかは怪しいが、過去の判例を出来うる限り学んで明日へと備えたいと思ったからだ。
 今回の裁判は、今までとは一味違った。いや、あくまで法介にとってで世間一般的にはそうではないかもしれないが。
 法介は今までの殆ど、いや全てが冤罪だった。しかし、この被告人は違う。罪を認めているのだ。それを言えば、あの極道の息子も同じではあるが。
 被告人のパターンは違ったが、捜査はいつも通り被告人に会うのが面会時間ギリギリになってしまった。一言二言しか交わせない時間だったが、彼は確かに自分が犯人であると言った。扱く、冷静に。
 つまり、法介のすべき事は無罪を主張するのではなく、不当に重い判決をかけられないようにする事なのだ。これまで「被告人は無罪です!」としか法廷で言ってなかった法介にとって、やりにくいと言えばやりにくい。しかし、いずれは通らなければならない道だ。成歩堂だって、本当の犯人の弁護をした事だってある。「いやー、あの時は本当に弁護士を辞めたくなったね」とさらっととんでもない事を言われたが。
(阿柴 夢――。職業、検事か……)
 と、いう事は明日、響也は自分の同胞を告発しなければならないのだろう。確かに阿柴は神奈川の検事だから、同僚とまでは行かないが同士である事には違いない。それに気を取られるような彼ではないが、それでも気持ちのいいものではないだろう。
 今日まとめた人物ファイルで、法介は明日の被告人のデータを改めて見返す。
 阿柴 夢(夢と書いて”のぞむ”と読む)30歳。独身。恋人や彼女、特定の親しい友人は見受けられず。
 彼の罪状は殺人。
 被害者は、実の姉だった。


 彼は全くの一匹オオカミもいい所で、休日もどこで何をしているか僚達は一様に知らないと言うばかりだった。
 そして、事件を聞いた時の反応は、まさか彼が殺人だなんて信じられない――それは優しい人だから、というよりそこまで憎しみなどという強く激しい感情を持ち合わしているとは思わなかったからだというものだ。
 しかし、両親はいつかこんな日が来るのでは無いか、と零していた。
 光(←姉の名前である)は小さい頃から社交的で明るく活発で、弟である夢はその真逆。口数は少なく感情も乏しい、何か話しても生返事ばかりで、何を考えて居るか判らない事が多かったという。
「だから、そんな光を、夢はずっと妬んでたんだと思います」
 娘と息子のどちらを思って泣いた涙なんだろう、と法介は母親の泣き腫らした瞼を見て、何となくそう思った。
「きっと、ものの弾みだと思うんです。光はもうすぐ結婚する予定でした。自分より幸せになるのが許せなかったんです」
 そう言って、母親は握りこぶしを強く握った。
「あれは――そう、光が10歳の頃でした。その頃の家は2階に子供部屋があって、下で私達が寛いでいたら突然大きな音が……慌てて見に行ったら、光が階段の下で倒れてたんです。訊けば、夢に突き落とされたって――オモチャが欲しいと我がままを言われて、それを断って部屋に入ろうとしたら急に後ろから押されたって――」
 その時、目から一粒涙が落ちた。
「……あの時……私がもっと夢の凶暴性に気をつけていたら……っこんな事には……!」
 悲痛そうな声に、後半は掠れて聴こえ取れなかった。悲しみにくれる妻を、隣に座る夫が抱き寄せる。白髪の混じった、初老の男性だ。訊けば、どこかの商社の重役なのだそうだ。
「君だけの責任じゃないよ」
 優しく語りかける。そして、法介に向き直った。
「それまでも夢は私達に壁を作っているようでしたが、その日を境にそれが顕著になったようでしたね。何を言っても、何を訊こうとしてもあまり語らず、たまに言ったかと思えば反抗的な事ばかりで――今回も、私の方でいい弁護士を頼んでやると言っているのに勝手に……」
 そこまで言って、彼は自分の失言に気づいたようだった。そう、目の前に居る法介こそが、その勝手に頼んだ弁護士なのだから。
「失礼しました」
 彼は慌てて頭を下げた。
「いやいや、オレも新人ですから、頼りないと思うのは判ります。でも、まだ少しだけだけど裁判の経験もあるし、出来る限りの事はします!」
 法介が力強く言うと、父親は力なく微笑んだ。
「お願いします……今となっては、彼が正しい更生の道を進んでくれれば、と思います」
「はい!……ところで、ひとつ、訊いてもいいですか?」
 法介は窺うように言う。ずっと、気になっていた事だ。
 どうぞ、という声に促されて、言う。
「本当に、彼が殺したんですか?実は違うと思っているとか……」
「見たんですよ!?私は!倒れてる光の前で立っている夢の姿を!」
 法介が恐る恐る言うと、その声に母親は過剰に反応した。
「どっちも動かないから、なんだろうと思って近づいてみれば、ひ、光の胸から、ち、血が……っ!!」
 その時を思い出したのか、母親は隠す事無く号泣した。
「君……すまないが、」
「あ、はい、失礼します!」
 法介は父親の余計な事を訊くな、という視線に押されるように、慌てて退散した。


(あーあ、下手こいたな……)
 あの分だともう話を訊けそうには無い。あの夫婦は被告人の親であると同時に被害者の親でもあるのだ。さらに、事件の第一目撃者でもある。ある意味、情報の宝庫みたいなものだ。まあ、それが正しいか誤りかは別として。
(さて、そろそろ留置所に行ってみようかな)
 さっきは生憎取調べ中で、顔すら拝めなかった。どうしてか、法介にはこういう事がよくある。被告と何も打ち合わせ出来ずにそのまま裁判当日、という事が。
「呪われてますね。きっと」
 それをみぬきがこう言った。しかも、真顔で。
(……笑い飛ばせなかったな、あれは)
 成歩堂は試練みたいなものだと思えばいいさ、とこれまた笑って言ったがそれはそれでありがたくないと思った。
(それにしても……)
 と、法介はさっきの夫婦とのやり取りを回顧した。
 何だか、とても疲れた。
 どこがどういう……と訊かれると困るのだが。滝太の時みたく、極道でもなかったというのに。
(そう言えば、あのお父さんは息子の無罪を信じていたな)
 状況としては、似てるパターンとしてもいいのではないだろうか。息子が有罪を主張し、被害者と対峙した場面を目撃されていた。そして、凶器からは当人の指紋つき。今回の事件も、凶器から被告の指紋が着いて居たからこうして告訴されている訳だ。
 しかし、それでも尚、滝太の父親は息子を無罪だと一貫していた。それは、母親も同じ事。。
 だから、さっきの2人態度がどこか気に食わなかったのかもしれない。
 例え、どんなに絶望的な場面でも、子供の無罪を信じてやるのが親なんじゃないのか。法介は、心の底でそう思っていた。
(まあ、今回は被害者も子供だからな……)
 両親が居ない環境で育ったせいか、親というものに少し理想を重ねすぎているのかもしれない。親だって人間なのだから、至らない事は多いだろう。
 気持ちを切り替えて、法介は調査の足を進めた。


 その後、留置所に言ってみたがまたタイミングが合わず、仕方ないからとあちこち調査し回っては移動に時間を取られ、次にまた留置所に来れたのは制限一杯の頃だった。こんな時、みぬきが居れば手分け出来たのに。調査は自分が居ないと色々危ないだろうが、被告人に話を訊く事ならみぬきにも十分務まる。なにせ、みぬきには自分と同じく見抜く能力もある。それは7年間成歩堂を無敗に仕立て上げた程の効力で、被告人の本音と嘘くらいも簡単に見分ける事が出来るのでは無いだろうか、と法介はこっそりみぬきに人間嘘発見器としての働きを期待していた。
「すぐに連れて来ますよ」
「お、お願いします!」
 ぎりぎりな時間なのは向こうも承知で、必死な法介を見て係員は苦笑のような笑みを零していた。
 そして、ようやく。法介は自分の被告人と顔を合わせる事が出来た。
 顔の作りとしては、霧人のタイプかもしれない。冷たい美貌の持ち主だった。黒髪を後ろに撫でつけ、ノンフレームの眼鏡を掛けている。服はシャツも背広も真っ黒で、ここからは見えないがスラックスも真っ黒なのだろう。前述したように髪も黒いので、黒以外の色彩は肌しか見られなかった。
 こうして面と向かって対峙してしまうと、相手が検事だというのを知ってるからだろうか。今から尋問が始まりそうで法介は変に動揺してしまった。
「――それで」
 と、彼が口を開く。低く静かで、ここの雰囲気にとてもあった声だった。
「何を聞きたいのですか」
「あ、は、はい!」
 静かな留置所に、法介の大きな声がよく響く。
「えーと、あの……」
「…………」
 法介が訊くまで、彼は何も言わないつもりのようだった。さっきのは、時間を無駄にしたくない為に先を促したという所だろうか。
「……本当に、殺した……んですか?」
「はい」
 あっさりだな、オイ。と法介は心の中でだけ突っ込んだ。
 同時に、腕輪の反応を確認した。反応は、無い。
(って事はやっぱり事実なのか?)
 それにしては物凄く落ち着いているように見える。ある意味、法介より冷静だった。
 本当に事件の真犯人になると、動揺とかしないものかな、と法介は思う。
「どうして、とか訊いてもいいですか?」
「幼い頃から続いた蟠りが、あの日爆発してしまったみたいですね。昔から反りが合わなくて、抑え切れなくなったようです」
 だからあっさり過ぎるよ、と法介は再び突っ込んだ。
 この証言を元にすれば、彼の犯行が突発的で衝動的なものである、と主張する事が出来るだろうか。法介は頭の中で明日のシミュレートをした。
 他に何か訊く事は無かったかな、と法介が頭を回転させていると、彼の方が話を切り出してきた。
「実は、私は過去に逮捕歴があります」
「え、えぇぇええッ!?」
 前科アリではナシとで判決が大きく変わる事くらい、法律に疎いものでも判るだろう。法介は、慌てた。
「しかし、それはあくまで過去の事で今回については全く関係ありません。麻薬不法所持でしたが、冤罪でしたしね」
 冤罪か。ならいいだろうか、と法介は慌てた自分を落ち着かせる。
「明日、検事側にそこを突かれたら関係ないと突っぱねてください。自分の罪は認めてますが、関係無い事で刑を重ねられるのはご免ですからね」
「あ、はぁ……判りました」
「それでは、時間のようです。明日、頼みましたよ」
 ガタンと席を立ち、係員に促されること無くドアの向こうへと歩いていった。何だか、役目を失った係員が行き場を無くした迷子のように見える。
(うぅん……出来れば、なんで冤罪だったのかも知りたい所だけど……まあ、確かに関係ないようだから、いいかな)
 一人、留置所に残された法介は、無理矢理自分を納得させて帰路についた。
 いや、もとい。帰路で無く、事務所への道だが。
(……あそこが、本当にオレの家だったらなぁ……)
 いやいや、何を考えてるんだ、と法介は軽く頭を振った。もう、日暮れだからだろうか。暮れ行く空を見ると、感傷的になる。
 この時間帯になると、夕食の買出しの行きか帰りの親子をよく見る。ネギやごぼうがはみ出た買い物袋をぶら下げ、開いた片方で子供の手を繋ぐ親子を見ていると、胸を締め付けられるような思いになる。
 両親は居ないが、私生児でも孤児でも無かった。その辺の事情はまだ判らないが、事実としてはそうなっている。
 親無しだったが、それについていじめのような目にあった覚えは無い。むしろ、自分よりうんと平凡な家庭の子が訳も無く苛められた。おそらく、特殊な環境ゆえに面倒だと思われたのだろう。これを幸運と捕らえるべきなのだろうか。
 自分に親が居れば、とそんなに渇望した事は無い。昨今のニュースで幼児虐待はもう珍しくない。もしそんなのが親だったら、と思うとむしろ居ない方がいい。今の状況でも十分生きていけるのだから、文句は出ない。
 でも、時々。
 親が居ないというその事実が、自分を押し潰しそうに襲う時がある。
 そうなったら、布団に包まってただ無心にそれが治まるまでやり過すだけだ。暫くそうしていれば、波が引くようにさっと遠のくから、特に相談するまでもないと思う。
 何かの周期のように、どんなに間が開いても決して消える事の無いそれは、最近はまだ出てこない。最近と言うのは、成歩堂なんでも事務所に転移(?)してからだ。
 それは環境が変わったからか、みぬきに毎日翻弄されていて不安になる隙すら無いからなのか。
 それとも、もう一人の所員が原因なのか。。

――オドロキくん

 ふと、あの日の成歩堂の声と顔が蘇る。
 自分の、あの波乱万丈の初法廷の後の彼とのやり取り。

――良かったら、僕の事務所に来ないか

 あれが、彼が証拠品の偽装をしたと認めた後では無かったら。
 自分はきっと、満面の笑みで2つ返事で感激の声をあげて、次の日には意気揚々とそのドアを叩いていた筈だ。
 しかし、現実は2ヶ月の隔たりの果てに、向こうからの緊急連絡が無ければ絶対行かなかっただろう。
 それを思うと、法介は胸に僅かにしこりの様なものを覚えるのだ。
 これが妙に気になって、シリアスに孤独感に潰されているほどの余裕は無い、というのが正解かもしれないと法介本人はそう思っている。


 そして、翌朝。裁判当日――
「さぁ、オドロキさん!今日も張り切って異議を飛ばしましょうね!」
 昨日は参加できなかったみぬきだが、今日はもりもり助手として活躍する気満々だった。むしろ、昨日使えなかった分を蓄積し、いつもより強烈になっているかもしれない。
「そうだね……と言いたいところだけど、今日の裁判は無罪有罪を決めるものじゃないから。そんなに異議は飛ばないかもな」
「んもー、オドロキさんったらそんなだからダメなんですよ!」
 裁判所到着5分くらいで、法介はみぬきからダメ出しを貰った。
「例え被告人が罪を認めていても、無罪を主張し続けるのが弁護士なんです!パパが言ってました」
「…………」
 みぬきの勇ましい口上を聞いて、法介は思う。いつか、誰か彼女にきちんと正しい弁護士という職業を教えてやらないといけないな、と。
 そして、ここで法介はみぬきをやり過す事でいっぱいで、被告人を疎かにしているのに気づいた。今まで会話にカットインしてくるような被告ばかりだったからか、気遣う事が疎かになってしまった。
 この控え室に居るのは被告当人の阿柴だけだが、両親もこの裁判を傍聴する為に来ている。
 門の前で屯している報道陣に、息子にどんな判決が下されようが覚悟している、というようなコメントを言って居たようだった。
 昨日と同じく、両親は弟が妬みで姉を殺したと、確信しているみたいだ。事務所に帰ってから流し見していた深夜ニュースでも、両親のその意向を聞きとめたキャスターが、阿柴の心情に関するそれらしきプロファイルをクリップで上げ、この事件の動機を勝手に語っていた。
「あ……と、阿柴さん」
 彼は、備え付けのソファにただ座っている。焦りも無く。
 ソファに座る彼を見て、「パパが見たら突き飛ばされますね」と法介にとって意味不明な事をみぬきが口走る。
「今日は、よろしくお願いします」
「はい」
「…………」
「…………」
(か、会話が続かねぇ……!)
 一発で強制終了を食らってしまった法介は、開廷前から冷や汗を流した。
「オドロキさん、弁護士が依頼人にお願いしますってのも可笑しくないですか?」
 みぬきだけはいつも通りで、法介に細かいチェックを入れる。
「こういう時、弁護士は怯える被告人に対して、不敵な笑みを浮かべるものですよ!
 いっちょ、大船に乗ったつもりで居てください!みたいな。
 もう、いっその事豪華客船でも!
 タイタニックでも!」
「沈む!それは沈んじゃうよみぬきちゃん!!デカプリオも凍りつくよ!!」
「――弁護側、開廷の準備をして下さい」
 係員の声が、この場に収集をつけた。


 どれだけ場数を踏んだとしても、この瞬間の緊張は薄れないだろう。初法廷からずっと、法介はそう思っている。
 自分の左に裁判長、右に被告人。そして、正面には検事の響也。余裕の態度だが、彼の場合被告の有罪が決まっているからではなくいつも余裕であった。
「それでは、牙琉検事。冒頭陳述を」
 裁判長が厳かに言う。ずっとこのスタントであれば、威厳のある人なのに、という感想はきっと法介以外も抱いている事だろう。
 牙琉はいつも通り、オーケイ、と言いながらパチンと指を鳴らし、歌詞を紡ぐように述べる。
「阿柴夢被告は先日、自分の実家にて姉・光を刺殺。犯行直後の様子を母親が目撃し、そこから警察へ通報。その場で逮捕。
 死因は心臓を一突きにされた事で、ほぼ即死だったと言えるね。
 さて、この辺に問題は無いかな?」
 ありません。
 と、法介が言おうとする前に。

     「異議あり」

 静かだが、場を切り裂くような鋭い声での異議が飛んだ。
 言ったのは法介では無い。
 勿論響也でもなく、ましてみぬきでもなかった。
 言ったのは――
「ひ、被告人!?急にどうしたのですかな」
 目をぱちくりと瞬きをさせ、裁判長が驚く。いや、裁判長に限らず、皆が驚いた。
 その中でも、一番驚いたのは法介だっただろう。驚きすぎて、何も言えないで居た。
 この場に居る全ての視線を受けながら、彼ははっきりと言った。
「私は、姉を殺してはいません。無罪です」
「な………何だってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええッッ!!!!?」
 法介のその声は、裁判所を揺らすくらいの勢いだった。


***

推理小説が好きです。つっても「よーし!この謎を解いてみせようー!」と滾るのではなく、探偵のその鮮やかな解き方が見たいからという理由ですが。
しかりやっぱり推理モノが好きな訳で、何かの場所に行ったり、物を見たりすると「ここで事件が起きたとしたら……」とか考える訳です。逆裁をプレイしても「この世界観で事件を起こすとしたら……」なんて頭の端で考えています。この話はその一端で出された一個の形みたいなものです。

最初に言っておきますが、コレは本格推理ものではありません。
「本格」の定義には「解決編の前に読者が自力で解決出来る材料が全て提示されている事」があるそうですが、そんなん無しにいきなり「えっ!そうなの!」的な強引な展開に引っ張っていこうと思います。「今までそんな事言わんかったやーん」というツッコミが思い浮かぶ事があるでしょうが、それは仕様だって事で(←全てが片付く魔法の呪文)

ちなみに阿柴夢はオリジのキャラです。本当は15歳の女の子ですが、ここでは都合上30歳の男性になってもらいました。でも中身は全く変わらないです。