家に帰宅して早々、吉田はまず風呂にどぶんと使った。肌に張り付いていた蒸し暑い夏の空気が、洗い流されてすっきりする。
 少し温めに設定された風呂に浸かり、吉田はふにゃふにゃと身体を解した。顔まで蕩けているのは、明後日まで会えないと思っていた佐藤に、今日、その顔を見る事が出来たからだ。
 吃驚させよう、という魂胆は吉田にも解るけど、でもそうだとしても身支度出来るような状況でありたかった。そこと思うと、表情が厳しくなる。とは言え、それすらもかなり甘ったるいものだった。
 まさか佐藤が来るなんて、それこそ夢にも思ってなかったから、タンクトップだって涼しさ最優先のデザイン2の次的な物だし、髪だって普段は絶対しない2つ結びだったり、何より、汗をかきまくっていたし!
 好きな人の前では身綺麗で居たいという気持ちは佐藤にだってある筈なのに、こういう所ではあまり気が効かないというか。
 しかし、普段が超人みたいに完璧に見える佐藤が、ちょっとボケた所を見せると、やたら可愛く思えてしまう。
 汗臭いからこっち来ないで、と突っぱねた時の、拗ねた佐藤の顔を思い出して、吉田はふふふ、とちょっと笑った。


 激しい運動をした訳ではないが、暑い中、ほぼ一日中外に居るというのは、それだけで体力を消耗するものだ。吉田の身体には疲労が溜まり、一刻でも早い休養――睡眠を要求している。歯磨きを済ませた後、敷いたままの布団にぽて、と横たわる。
 このまま、寝入ってしまいたいけど、そうもいかない事がある。
(明日、着て行く服選ばなくちゃ……)
 もはや佐藤と会う前の恒例行事となっている。高橋と遊ぶ時でも服は選ぶけども、さすがに前日から頭を悩ませたりはしない。
 特に下着は念入りに考えたいものだ。およそ1週間、間が開いたのだ。場合によっては、明日は玄関から部屋までの距離までしか服を着ていないかもしれない。
 なんていう自分の想像に、吉田は真っ赤になった。その羞恥でちょっと眠気を脱したのか、携帯の着信ランプが点滅しているのに気付く。おそらく、風呂に入っている間にメールが来たのだろう。その予想は当たり、しかし発信者が佐藤だったので吉田はうひゃっと赤くなり、メールを開く。
 明日、楽しみに待ってるから。という文面で、さっきの入浴中よりも余程身体が蕩ける心地だった。


 翌日――休みの日だというのに、吉田は学校のある平日より早く目が覚めてしまった。ただ単純な話し、寝るのが早かったのだ。
 佐藤のメールに返信しようと思い、携帯を握りしめている形で眠っていた。ぽやぽやと明日に期待を馳せていたのが変なリラックス効果でも生んだのか、知らずに寝入ってしまったようだ。恥ずかしい、と自分しかいない自室で、吉田は縮こまった。
 幸い、時間はある。吉田はじっくり、服と下着を選ぶ事は出来た。
 服が無事に決まった事にほっとし、吉田は時計を見た。予定の時間に、まだ大分余裕がある。吉田はやきもきしながら時間の経過を待った。
 結局、少しだけ待ちきれなくて、少しだけ早く出る事にした。今から出発すると、予定より10分は早く着くだろうか。
 吉田はメールで、今から出る事と、昨日は早々に寝てしまってメールに返信出来なかった謝罪と、そしてその為早く起き過ぎてしまった、という内容を送った。
 玄関を出た所で、その返信を貰う。そこには、こう書かれてあった。
『だったら、その分早く来れば良かったのに。早く吉田に会いたいよ』
「…………」
 夏の午前中。外気の気温以上に吉田の顔の熱も上がって来た。


 きっと、玄関で自分を出迎えた佐藤は、その場で息も出来ないようなキスをして来るのだろう。
 佐藤の家に近づくにつれ、昨夜から頭に浮かぶその予想に、吉田は胸を昂らせた。
 いつもだったら恥ずかしい、と抵抗してしまうけど、今は胸の中が佐藤会いたさで募っている。一杯抱きしめて欲しいし、キスして、それから沢山触って貰って、気持ち良くなりたい。
 こんなに佐藤を欲しがるのは、珍しい。今まで知らなかった自分にちょっと驚愕しながら、すんなり受け入れられるのはやっぱり自分の事だからだろう。


 インターフォンを鳴らしてからの数秒、吉田はドキドキしながら佐藤を待っていた。
 ドアが開かれ、自分を見て顔を綻ばせた佐藤に、吉田が胸がきゅぅ、と締まるような感覚に見舞われた。昨日は雑多な人ゴミ内で、ゆっくり顔を見る事はあまり出来なかった。と、いうか大半はあのお面付きだった。
「来る時暑かった?」
「午前中だったから、そんなでもないよ」
 そんな会話をしながら、吉田を招き入れる。吉田の小さな頭に佐藤の手がぽん、と乗せられ、撫でるというより感触を楽しむように手がゆっくり動く。来た、と思って、吉田が真っ赤になって身構える。
 しかし、吉田の予想とは裏腹に、その手は他の何処にも触る事無く、あっさり退いてしまう。あれ?と佐藤を見上げる吉田。佐藤は至って普通だった。意地悪してあえて触らないとか、そういう感じでも無い。
 佐藤が自室に向かって歩きだしたので、吉田もそれに倣う。とことこと歩きながら、やっぱり久しぶりだから玄関でというのは避けたのかな、なんて思っていた。
 ところが、自室に着いても尚、吉田の想像外が待っていた。
「それじゃ、課題やっつけておこうか」
「――へ?」
 一瞬幻聴かと思ったが、悲しいくらいに現実である。
「だって昨日、プリント類はやってない、って言ってただろ。ついでだし、片付けておいた方がいいだろ?」
 教え役、つまり自分も居るし。なんて佐藤はしれっと言う。
「え、え、え、え、で、でも―――………」
「筆記具なら貸すし。プリントはコピーしたのがあるから」
 そう言って、佐藤は机の上を勉強一色に染めてしまう。その様を見て、あうあう、と言葉に詰まる吉田。
 ――そうじゃなくて!今日は家で、ずっと佐藤とイチャイチャしたいの!!!……なんて言えるキャラクターだったら良かったのに。とても言えない吉田は、密かに肩を落とした。
 普段は、しないで、と言ってもしてくる癖に。
 せっかく、すぐ出来るように短めのスカートを選んだと言うのに。
(もしかして、佐藤って意外と健全?)
 いやそれより、自分が思っていたよりふしだらだったと言うべきだろうか。今日が初めてでもいいかも、なんて思っていた昨日の自分を打ち消すように、吉田はプリントに取り組んだ。


 貰った時はうんざりしたプリントだが、こうして集中してやれば早く終わるものだ。佐藤が課題を済まそう、と言った時は不貞腐れた吉田だが、終わってみればやってみて良かった、なんて思った。これで、夏休み最終日に向けて患う事がひとつ減った。
 その後、時間が丁度合っていたので昼食に突入した。佐藤が作ったパスタは美味しくて、デザートも用意されていたので、吉田もすっかり上機嫌だ。
(佐藤も、帰省帰りでちょっと疲れてるのかも)
 そう思った吉田は、今日はずっとまったりして過ごすのだと居たのだが。
「吉田。髪弄っていい?」
「え? ああ、うん。いいよ」
 そういえば昨日、祭りの時に、今度括ってあげる、と言っていたのを思い出す。それの練習をしたいという事なのだろう。吉田は快く頷いた。こんな事もあろうかと、昨日の風呂の時はしっかり丹念に、髪を洗ったのだ!!
「それじゃ、お言葉に甘えて」
 吉田の後ろに位置した佐藤は、まず、後ろ髪を一本にまとめた。
「っ……!!」
 そんな些細な行動なのに、吉田の全身がビクン、と震える。久々だからか、かなり敏感になっている。
 髪が軽く引っ張られる時の何とも言えない感覚や、指の腹が微かに頬や首を撫でて行く時、背中がぞわぞわと落ちつかない。やがて、下腹部の下の方が疼いてきた。腹部の中が熱くなって来る。ヤバい、と吉田は危機感を覚える。
(きょ、今日はそんなんじゃないから……!)
 その気になっても困る!と吉田は必死に自制をかけた。お願いだから、感じ始めた体躯に佐藤が気付きませんように!と必死に祈りながら。こんな事で感じているのがバレたら、ちょっと引かれるかもしれない。吉田は熱くなる身体のせいで、内心ひやひやした。
 そんな間でも、佐藤は順調に髪を纏めている。
「吉田の髪って、しっかりしてるからピンで止めやすいね。皆から言われない?」
「え……ど、どうかな……」
(っていうか、そんなすぐ傍で喋らないで――――!!)
 耳からゾクゾクとした震えが走り、吉田はもう腰が砕けそうだ。髪を纏められているだけだというのに、かなり大変な状態の吉田だ。
「出来た。――後ろ髪を上げてみたけど、どうかな?」
 ようやく、終わったらしい。ほ、と吉田が息を吐く。
 きっと真っ赤になってるだろう顔を見られるのは阻まれるので、佐藤を背後に置いたままの姿勢を保つ。
 後ろ髪をアップにする形は、初めて取った。髪を切った訳でもないのに、首元がスースーするのが違和感、というか新鮮な感じだ。
「う、うん、凄い涼し――――いッ!!!?」
 ちゅ、と剥き出しになった項に、佐藤の唇が当たる。柔らかい感触に、吉田の身体は飛び跳ねた。
「な、な、何っ!」
 後ろを振り向こうにも、むしろ佐藤が邪魔するように後ろからおんぶのように圧し掛かって来る。背中全体に佐藤の体温を感じ、「んぎゃー!」と吉田がさらに真っ赤になった。
「大丈夫大丈夫。痕はつけないから」
 そうは言うが、そのセリフ直後に落とされた唇は、ちゅぅ、と軽く皮膚に吸いつくものだった。まあ、佐藤の事だから、宣言通り跡にはならない力加減だろうけど。しかしここで問題なのは、キスマーク云々より、その刺激が吉田の中で芽生え始めて快楽中枢に思いっきり響く、という事だ。ただえさえ、ある種焦らされている最中なのに、新たな刺激が加わり、必死にかけている自制が今にももろく崩れ落ちそうだった。
 力の抜ける身体を支える為、吉田は傍にあったソファに縋る。床に崩れ落ちる心配はこれで無くなったが、佐藤からの首への攻撃はまだ終わらない。
「……さ……さとう……しつ、こいっ………」
 ベッドだったらシーツを掴めただろうが、ソファだとそうはいかない。ぎゅぅぅ、と吉田は拳を作って耐えた。
「……吉田って、首が弱いよな」
 ぴちゃり、とまさに其処を舐めながら佐藤が言う。
「可愛い声出してさ、一瞬身体がきゅって縮こまるけど、その後くったりするのが本当に可愛くて、」
 まだセリフが続くような素振りを見せ、しかしその後は吉田の首を弄びのに没頭し始めた。
「んっ……くぅ………ふっ………」
 ざらついた舌が、何度も何度も敏感な首筋を這う。そんな首への愛撫なのに、疼くのは下肢だった。
(うああああ、いっぱい出ちゃってる……!!)
 微かに身じろぐだけでも、其処が滴るほどなのが解る。だから、実際はもっと濡れているのだろう。かあ、と顔を赤くする吉田。
「ひぅっ!!?」
 佐藤の手が、無遠慮なまでに突如スカートの中に潜り込む。そして吉田が気にして堪らない、濡れそぼった下着に指を這わした。熱い液をたっぷり吸いこんでいる生地に、佐藤は小さく笑った。
「何、首舐めてるだけでイっちゃったの?」
 吉田の耳に吹き込みながら、濡れた下着の上から秘所を弄る。
「ち、ちが、イってな……やあぁぁぁぁぁっ、だめっ!今、イくっ、イっちゃ…う……んぁ、あ―――――ッ!!」
 布越しだというのに、敏感な箇所を辿る佐藤の指に、吉田は呆気ない程に達してしまった。
 背を極限まで逸らし、久々の絶頂に身体を震わて吉田は悦ぶ。くたん、と再び伏せてしまった吉田に、佐藤の手は止まらない。
 じわり、と更に多くの愛液を滴らせた下着を少しずらし、身体の中で最も熱い箇所につぷん、と指を突き入れた。
「ひぃ、ん―――――ッ………!!」
 疼いていた秘所に指が埋め込められ、その感触に体が小刻みにぶるぶると痙攣する。
 湿った布はぴったりと熱い秘所に張り付くし、ずらした下着が花芯を刺激して感じっ放しの身体に頭がクラクラしてきた。この状況に、終わりなんて来るのだろうかとすら思う。
 奥まで指を突き入れ、内部の狭さを熱さを確かめるように、何度がゆっくりと抜き差しした後、入口に近い所で指を軽く曲げ、擽るように引っ掻く。
「んぁあああああッ!! そ、こっ、ダメぇ……ッ!あぁぁぁ―――――ッ!!」
 吉田の知識には無かった、内部での女性の感じるポイントを責められ、甘い悲鳴を上げて吉田が喘ぐ。指が動く度、恥ずかしいくらいにしとどに液が溢れる。もう、下着は着けている意味が無さそうなほどに、びしょ濡れだった。
「やぁぁ……中、いじらないでぇっ……」
「ふぅん、こっちが良い?」
「きゃぁぅぅっ!!」
 耳を軽く食まれ、自分でも感じるくらい膨らんでいた花芯を摘まれ、身体に軽く電流が走ったような快感が突き抜ける。あまりに突発で達したせいか、イったという実感が湧かない。なのに、身体は痙攣してヒクつき、中の佐藤の指を締めつけていた。
(やだー!もう、可笑しくなりそう……)
 性感帯を確実に突いてい来る愛撫は、感じる純度が高くて軽く触れられるだけでイってしまう。貯め込む事が無い分、小さい波が何度も押し寄せているようなものだ。そろそろ、大きいのが欲しくなって来たのだが。
 しかし自分ばかりが乱されている現状、やっぱり佐藤にはその気は無かったのだろうか、という懸念がちらりと過ぎる。こんな風に一杯触って貰えて、昨夜からの欲求不満は解消されつつあるけど、やっぱり2人で気持ち良くなりたかった。
「……ふゃ……はぁ……はぁ……」
 下肢にある全ての感じるポイントを弄られ、吉田はもう息も耐え耐えだった。力は全く入らず、上半身がソファの上に乗っているような状態だ。
(うぅ……もう、色々ダメェ……)
 これ以上感じたら、戻れなくなる。そんな恐れすら抱き始めた頃、佐藤から動きが合った。
「吉田………」
「……んっ……!…」
 背後から覗きこむような、吉田にはちょっと体勢が苦しいキス。それでも、佐藤の温もりが嬉しくて、吉田は一生懸命応えた。
「ん……は、ぅ………」
 下肢だけを弄っていた手が上に上がり、腹を撫でて胸部を露わにさせる。ぷっくりと膨らんでいる突起を指で転がすと、それだけで達しているように吉田が身体を震わす。
 濡れては居ない方の佐藤の手が、何やらごそごそと蠢く。スカートを脱がす為だと解ったのは、脱がされた後だった。たっぷり液を含んだ下着も取られ、火照っているそこがやけにスースーするのは期待もしているからだろう。こんな風に細い指で的確に弄られるのもいいけど、吉田はもっと気持ち良い事があるのを知っている。下肢全てが脱がされたという事は、それが迫っているという事だろう。
 吉田、と低い声で佐藤が呼ぶ。濡れたような乾いたような声の質は、こんな時でしか聞けないものだった。この声を聞くと、頭の芯がじぃん、と痺れて、羞恥心が剥がれおちて行く。
 何度も繰り返されるキスの中、ジー、とファスナーが降ろされる音がする。ああいよいよだ、と吉田の胸も高まる。
 佐藤はすっかり力の抜けた吉田の身体を引き寄せ、自分の胸に背を預けるように坐らす。吉田の可愛い痴態に、存分に猛った自身が秘所に触れるように。
「! さと…う……佐藤の、がっ………!」
 当たっていると感じただけで、ぞぞぞ、っと痺れるような快感が背筋を這いあがる。その反応の気を良くして佐藤は、吉田の膝裏に手を掛け、彼女の身体を揺さぶった。
 さっきから何度も達して、とろとろに蕩けた秘所を擦って行く。気持ち良過ぎて、吉田の頭の中が真っ白になる。
「あっ! もう、ダメ、ダメェ……ッ あぁぁぁッ……また、……やぁッ……!!」
 今感じている絶頂は激し過ぎて、佐藤から落ちてしまう程に身体が撥ねてしまう。勿論佐藤がしっかり抱えているから、本当に落ちる事は無いが。
 背が弓なりに反り、吉田の頭が佐藤の胸板にぐりぐりと押しつけられる。なんだか動物が懐いているような行為にも、見えた。クスっと小さく佐藤は笑う。
「吉田………」
 少し呻くように、佐藤が言う。苦しそうな声ではあるが、驚くほど艶を含んでいて、甘くて熱いその声は吉田には聞き覚えがある。自分が達する時のように、大きな痙攣をし始めた佐藤を感じて。
「俺も、イくっ………」
「ん、うん……」
 特に考えも無しに、吉田は無意識に頷いていた。その仕草に、佐藤の表情は嬉しそうに綻ぶ。
 ちゅ、とこめかみにキスをした後、自分が感じる為に揺さぶって行く。ぬちゅぬちゅと厭らしい音がして、それが余計に2人を昂らせる。
「ぁんっ……はあ、あっ、あぁっ……!」
 佐藤が感じる事は結局吉田にも気持ち良い事で、すっかり嬌声を惜しむ事無く発している。その声すら貪りたいと、佐藤は吉田に無理をさせるのを承知で、背後から深く口付けた。捻る体勢に、吉田の眉が辛そうに寄る。
「ん、ふっ……んんんん―――――――ッッ!!!!」
 達した時のひと際甘い声も飲み込み、激しい蠕動をする吉田の秘所に、佐藤も自分の欲望を外に吐き出したのだった。


 その後、改めてベッドに場所を変え、そしてさらに浴室で。
 風呂でも再び汗をかく事になったが、まあ汗を洗い流してまたベッドの上に戻って来た訳だが、さすがに佐藤も打ち止め……というか、吉田の腰が本当に立たなくなるので、これ以上は自重しよう、と佐藤は決めた。もっとしたいのだけど。本音は。
 絶頂を迎えた証として、男性は吐精とはっきりした形で解るが、女性にはそんな明確な事象は無いのだろう。大小合わせて吉田は何度イったのか。佐藤にも、そして吉田本人にも解らない事だ。
 クッションに埋もれるように、吉田はかなり崩れた姿勢でベッドの上で座っている。しっかり座る事もままならないのだ。そして、まだ行為を引きずってぼんやりとした双眸を浮かべている。その顔はちょっと恍惚の表情に似ていて、佐藤的にはかなり困った事だ。目を逸らすべきなのかもしれないが、でも見ていたいし。
 とりあえずは、散々鳴かしてしまった吉田の為に、ドリンクを用意しよう。アップルジュースを佐藤は差し出した。
「飲む?」
「うん……」
 吉田は手を伸ばし、グラスを受け取る。はっきり言って、今の吉田にグラスを傾ける体力があるかも疑問な佐藤は、いつもはつけないストローを差してあげた。それを口に含む時、ムラっとしてしまったのは計算外だが。どれだけまだやりたりないというのか。吉田をここまでの状態にさせておいて。
 その自己嫌悪は、重い溜息となって吉田にも知られる所にもなってしまった。気遣う様な視線の吉田に、佐藤は言う。
「いや……こんな無茶しないように、一旦勉強して抑えようと思ったんだけど、結局全く役に立って無かったかな……って」
 佐藤のセリフに、吉田はますますきょとんとした。
「あの勉強したのって、そんな意味だったの?」
 内容を繰り返す吉田に、佐藤は頷く。そうだったんだ、と独り事のように呟く吉田。
 吉田のすぐ隣に位置した佐藤は、ゆっくりと髪を撫でる。風呂上りで、少ししっとりしていた。
「変な話だけどさ、会えない時はそこまででも無かったんだけど、昨日吉田と別れて家に帰ってからもう、吉田の事が欲しくて欲しくて。なんかもう、押しかけて行きそうな勢いだった」
 あはは、と軽く言っているが、若干なりとも本音が混じっているのだろうな、と吉田は思った。何故なら、吉田もそんな状態だったからだ。きっと。完全に会えない状態の方が、まだ耐え易い。しかしその分、顔を見ればその時蓄積していた分が、一気に圧し掛かるのだ。
「……いきなり勉強とか言いだすから、今日はこういう事、しないのかと思った」
 その時の自分の驚愕を思い出し、吉田はちょっと笑った。そんな訳ないだろ、と言い返す佐藤の顔も笑っている。撫でながらそんな笑みを浮かべていた佐藤だが、不意に何かむず痒いものでも堪えるような顔になり、触れていた手も離してしまう。どうしだんだろう、と吉田は佐藤を見入ってしまう。
「……また、したくなりそう」
 ちょっとだけ、バツが悪そうに佐藤が言う。それを受けて、吉田の顔もかぁぁ、と赤くなった。
「……えっと……そ、それは……」
 まあ、ダメだろうな、と佐藤は待ち構えていたのだが。
「も、もうちょっと休んでからね」
「……………」
「え、な、何? 何??」
 無言でじー、と自分を眺める佐藤に、吉田はおろおろしてしまう。今すぐじゃないから、不貞腐れたのか、なんて見当違いな事を思って。
「休んだら、してくれるの?」
 あえて問いかける佐藤に、ますます顔を赤らめる吉田。
「だ、だって……そりゃ………」
 ごにょごにょと言葉を濁したままの吉田だが、言いたい事は勿論佐藤には伝わっている。吉田も、こういう事を沢山したくて、今日訪れたのだ。そういや、スカートの丈もちょっと短かったし(←気付いた)
 嬉しさと愛しさが同時に募った佐藤は、吉田を胸に引き寄せた。抵抗力もさらさら失っている吉田の体躯は、あっさり佐藤の胸に寄りかかる。あわわ、と若干高くなっているような体温の佐藤に、吉田は落ち着かなくなった。佐藤の体温は、気を静める時もあるし、逆に昂らせる時もある。今はその後者だ。
「やっぱり、初めに気を逸らしておいて良かった」
 吉田の頭に頬を寄せ、佐藤が言う。
「最初からこんな可愛い所見せられてたら、俺の方がもたないもん」
「……今だって全く平気な顔してるくせに」
 何がもたないんだって言うのか、と些細な反証に出る吉田。
 とりあえず、頭に施されるキスをくすぐったく受け入れながら、佐藤に応えられるようになるまで、体力を蓄えよう。まだ身体の奥で熱が燻っている自覚は吉田にもある。勉強に少し時間を取られたけど、早く来た分がそれを挽回している。
 ずっとこんな風に触れ合えたらいいのに。
 そんな事を思いながら、吉田は開始の合図代わりに、佐藤の唇にちゅっと可愛いキスをした。



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