きっかけは、カラオケ。そう、カラオケなんだ。
 だからこの先、あんまりカラオケには行きたくないなぁ、と思うけど、多分その内行くと思う。友達同士の付き合いってやつでさ。


 テスト開けというのは、中身がプシューと抜けたような、逆にぎゅうぎゅうにに詰め込まれたような、まあリラックスすると同時にやる気も漲る、そんな解放感で満たされる。佐藤の中にある解放感は、佐藤をカラオケに行かせたいようだった。今からカラオケ行こうか、と放課後の教室、佐藤の声に聞き耳を立てている女子達には聴こえない、絶妙な音量で言う。
「いいよ。……秋本達も一緒なら」
 素直に頷いてから、思い出して警戒した。佐藤と2人きりになるのは危険だ。そして、其処が密室であるとさらに危険だ。ノーヘルで運転するのが自転車からバイクに変わるくらい。
 佐藤は、俺の提案(なのかな?)に快く返事をしてくれた。そんな様子に、今日は佐藤も、普通に遊びたいだけなのかもしれないな……なんて思ったのは束の間。2人はすでに予定が入っていた。
 牧村はテスト期間だっていうのに、いつの間にかまた恋人候補を見つけていて、これからデートに誘うのだと意気込んでいるし(とりあえず健闘を祈っとく)秋本はあの可愛い幼馴染とショッピングだそうだ。何か甘酸っぱい響きだな、ショッピングって。
 しかしこの2人に断られたからって、他にカラオケに誘える相手が居ない訳じゃない。でも、佐藤は秋本の返事を聞いてから、俺の腕を引いて教室を出た。佐藤のその顔は、擬音語でいうなら「ルンルン♪」って所だ。
「じゃ、仕方ないよな。2人で行こう♪」
「……………」
 佐藤、お前、牧村が好きな子を見つけたのも、秋本が洋子ちゃんと約束してたのも、知ってたな?



 とりあえず駅前に出て、どこのカラオケに行こうかと物色する。適当に歩いていたら、ドリンクサービス券つきのチラシを貰ったから、あっさりそこにしようと決めた。
 店内に入ると、同じようにテスト開けの高校生が結構いた。テスト期間ってのはどこも同じなんだなーって思う。
 そして。
 一々気にしてられない、って思うんだけど、佐藤が入った途端、その場に居た女の人の視線が佐藤に集中して……う〜ん………
 明らかに彼女的な感じの人まで、佐藤を見てぽーっとしてる。そして、隣に居る彼氏的な人が顔を顰めている。すいません、こいつがキラキラしてるのはもうどうしようもないんです。クジャクの羽が派手なのと一緒なんです。多分。
 良く解らないけど、色々謝罪したい気分でレジ待ちをする。せめてもの救いは受け付けの人が男性だった事だ。そこまでの事はあまりないけど、佐藤に見惚れてなかなか用事が果たせない、なんて時もあるし。
 俺達が貰った部屋番号は307。なんとなく、7があるとラッキーって思う。
「……先に言っとくけど、ヘンな歌リクエストすんなよ」
「ヘンな歌って?」
 エレベーターを待ってる時、一応佐藤に釘をさす。あからさまに、すっとボケてくれたけど。
「だから、恥ずかしい歌とか、そんなのだよ」
「恥ずかしい?」
「〜〜〜、ラブソングの事!」
 はぐらかしも聞き逃しも出来ない様、ズバリと言ってやった。どうだ、佐藤!これでも誤魔化すか!……なんて睨んでみたら、凄い涼しげな顔で笑ってるし。
「ヘンじゃないじゃん。ちゃんとした歌だろ?」
 歌の方がちゃんと整っていても、俺の方が備わって居ないのが問題だっつーに。
 でも、ここで言ってみても、また勝手に入れられちゃうんだろうな……無視すればいいけど、曲が流れると「歌わないと勿体ない!」みたいについ反応しちゃうし………
 こうなったら、俺の方も、何か佐藤に、すっごい甘いラブソングでも歌って貰おうかな。徳永英明も身悶えするくらいの。
 うーん、でもそれをノリノリで歌われたら、聞いてる俺の方がダメージだ……何か良い手は無いのか……
 良い案が出ない内に、エレベーターは目的の階まで俺達を届けてしまった。フロアに着くと、防音がしてある部屋だというのに、何となく音が聞こえる。ガラスのドアはさすがに完全に防いでくれないからだろうか。色んな音が混じり合って、あまり良い空気じゃないなぁ。
「307って何処?」
「305からはこっちだから、逆かな」
 きょろきょろする俺に、佐藤が壁の表示を見て、解りやすく説明してくれる。
 でも、俺の目や意識は違う所に向けられていた。
 エレベーターは2つあった。俺達が乗ってたヤツの直後に来たのに、乗っていたのは――
(山中!!)
 声に出さず、胸の内で叫んぶだけに済ませた自分を、俺は偉いと思った。佐藤と付き合って、驚く事に耐性でも出来てきたんだろうか。
 山中が、カラオケに来るのは別にいいと思う。
 女性と2人じゃなければ。


 佐藤のような標準以上の背丈の男を隠すのは、大変だった。もうちょっと低くてもいいのに。そして、その分を俺にくれてもいいのに。
「……何なんだよ」
 屈んで、屈んで! と言われた挙句、俺に頭を押さえつけられてる佐藤の声は不機嫌だった。まあ、これで喜ばれた方が困るんだけど。
 カラオケのフロアなのに、緑化活動に勤しみたいのか、この一帯だけ観葉植物が賑わっている。身を隠したい俺の視界に真っ先に飛び込んだ一角だ。
「山中が居たんだ!」
 小声で叫んだ事に、佐藤はたったこれだけで、俺の取った行動の意図を知ったらしい。一を聞いて百を推測するよーな男だな、佐藤は。
 息を殺して相手の動向を窺う。
 山中らしき2人連れは、302号室に入って行った。
「……よし、行こう」
「行ってどーすんの」
 凄い面倒臭そうな佐藤の声。もーちょっとやる気出せよな!
「どーすんの、って、女の人連れ込んだんだぞ! 何とかしなきゃ!」
 ちょっと前なら、山中が女の人を何人連れ込もうが、ほっといたと思う。
 でも今はそうじゃない!
 だって、とらちんが居るのに!  
 とらちんの事が好きな癖に!! 
 男同士はどうやるの、って俺なんかに聞くくらい好きな癖に!!!!
 許せん!!!
 これでいきなり他の人に鞍替えとかしたら、これまでアイツのうんざりする相談に乗って来た俺の苦労はどうなるんだ!……って、いやいや、ここはとらちんの気持ちが大事だろう。気持ち、大事。
「なんとかって?」
 腹立つくらいに冷めた佐藤の声に、しかし俺は言葉に詰まった。
 本当に浮気現場だったとして……どうすればいいんだろ? 写真でも撮る? って、雇われた探偵か俺は。
「うー、だから、まぁ……乗りこんで、現場押さえて、そんな事はやめなさい、みたいな」
 とりあえず何か言わないとバカにされる、と思って言ってみたけど。
 言わない方が良かったなぁ、って遠い目をしたくなるくらい、温い笑みを送られた。全力疾走しているつもりで5分かけても1メートルも進んでないカメを見てるような笑みと目。仕方ないだろこんな事初めてなんだし!
「――って言うか、本当に山中だったのか?」
 佐藤が「山中」と口にする時の顔は、これからピーマンの野菜炒めを食べようとするちっちゃな子供を彷彿させる。そこまで嫌わなくてもいいのになぁ、と俺が思ってしまう。多分色々と血迷った山中の直接の被害者である俺が。
「うん、そうだったと思う」
 まず髪型が同じだった。あんな癖っ毛の持ち主は、山中以外にはボヴィーノファミリーの殺し屋くらいなもんだと思う。
 背も、山中と同じくらいだったし、あれは山中だ!きっとそうだ!!
「まぁ……顔は見てないんだけど」
「ダメだろ。それじゃ」
 スパッと切れ味のいい佐藤の突っ込みだった。柔らかいトマトも綺麗な切れ口を見せてくれそうだ(なんて想像するのは母ちゃんが見ている通販番組の影響だろう)。
 佐藤の言い分も全くだ。っていうか佐藤の方が正しいと思うよ。俺だって。
 でも。
 違ってたら、間違ってたで済む事だ。もし本当だったら、凄く怒って悲しむ(かもしれない)人を俺は知っている。だから、ほっとけない。ましてその人は俺の親友なんだから。
 そう、佐藤に伝えると、何もしてない今からとても疲れた、というような顔をする。
「解った。とりあえず、本当に本人か確かめてみよう」
 良かった、佐藤も賛同してくれた。きっと、上手い事やってくれるだろう。
「で、本当にアイツだったらすぐさま引きずり出して四肢分断した後性器も切り落とすって方向で」
「そこまで恐ろしい事は俺の方がお断り願いたいんだけど!!!!?」
 その後、どれだけ待っても「冗談だよ」という佐藤からの一言は出なかった。


 何はともあれ、顔を見ない事には始まらない(っていうか何も始まって欲しくないんだけどね!)。
 この目的を達する為に、俺達は「部屋間違えちゃいました作戦」に出る事にした。つまり!自分達の部屋だと勘違いしてその部屋のドアを開けてしまうという作戦である!!!!!
 さて重要なのは、その間違えたおっちょこちょい役をどっちがするかと言う事。もし人違いだった場合、その後を穏便にそっと退却するという任務が課せられるのだから。
「言いだしっぺは俺なんだし、俺がやるよ」
「出来るの?」
「間違えたフリしてドア開けるだけだろ? 何も難しい事ないって」
「まあ、確かに。いかにもそんな間違いしそうなうっかり顔してるし」
うぉい
 なんてやり取りしていたら、目的の部屋の前に立った。
 一瞬佐藤を見て、決行の合図を目で送る。同じく、目で答える佐藤。
 ガチャリ。
 躊躇いを見せず、俺はドアを開いた。暗いけど、人相くらいは解る。
 ――結果、男は山中ではなかった。髪型はそっくりだったけど、正面から見ればひと目で解る別人だった。
 うーん、間違っていて欲しい、とも思っていたけど、本当に間違いだとバツが悪いな……
 とらちんが絡んでるから、必要以上に過敏になってんのかも。
「――スイマセンッ! 間違えましたー!」
 俺はいかにもすまなさそうに謝り(まあ実際お邪魔して申し訳ないと思ってるけど)、ドアを閉めた。
 隣を向くと、意地の悪い佐藤の笑みとご対面をする。何かしらの代償を求めているんだろう。
 仕方ない。完全に俺のスタンドプレイだったんだから、迷惑料は払おうじゃないか。恥ずかしいラブソングでも、デュエットでも!
 俺達は宛がわれた部屋に向かった。
 ――この時。
 部屋を覗いた時――俺は、男の方ばかり見ていたから、気付かなかった。
 女の人が、後ろの佐藤を見て、目をキラリと光らせたのを。


 だから椎名林檎は嫌だって言ってるじゃんか……!!
 せめて、いきものがかりくらいで済ませて欲しいのに。
 でも何が一番問題かって、歌ってる最中、佐藤はずーっと俺の事を見ている事かな……これが無ければ少しは……いや結局同じかも。
 その視線から齎される、腹の中からくすぐられるような恥ずかしさを紛らわす為にジュースをごくごく飲んでいたら、トイレが近くなった。やれやれ。
 俺達の部屋が一番トイレから遠いんじゃないかな。歩きながら何となくこのフロアの地理を確かめてみる。
 途中、山中と間違えた人の部屋の前を通る。さっきはすいませんでした、と心の中でだけ謝った。
 用を済ませて出て来ると、何故だか女の人から声をかけられた。
「あ、ちょっと、貴方」
「ふぇ?」
 まさか声をかけられるとは思ってなくて、間抜けな声をしてしまった。
 相手は、大学生くらいかな。カジュアルとセクシーを足して2で割ったような服装だった。唇がとてもてらてらとしているから、何か塗ってるんだろう。
 何か、この人見覚えあるような……?
 どこだろ。いや、知ってる芸能人に似てるのかな?
「何か、連れの人が先に降りてるから早く来てくれだって。鞄も持って行ったよ」
「えっ!? そ、そうですか?」
 俺あ女の人へ、伝言役を引き受けてくれた礼を言って、エレベータで1階に下った。
 いきなり帰るなんて、何かあったのかな? 下に動く空間の中、俺はつらつらとその理由らしきものを考えていた。
 ――だって、相手が完全な初対面だから、ウソをつく理由が無いと思ったんだ。
 あの人が佐藤と個室で2人きりになりたいために、俺を追い出したと気付いたのは、1階のロビーで5分も経ってからだった。そこには居ない佐藤を一生懸命探して。


 あー!こんな時に限ってどうして早く来ないんだよッ!!!
 ガチガチガチ!!とその内店員さんから苦情が来るんじゃないかなってくらい、ボタンを連打してみる。が、勿論それで早く来る筈も無く。やっと着いたエレベーターに、俺は思わず「遅い!!」と突っ込みを入れたくなった。でも、それくらいの非常時だ!
 何せ、5分も経ってしまった。終わってるとは思わないが、導入部に差し掛かってるかもしれない。
 大変だ!
 佐藤も大変かもしれないけど、女の人も大変!かもしれない!
 山中の時の光景が鮮やかに蘇る。俺はあれだけ、見事に人が蹴り飛ばされる光景を見た事が無い……
 まあ今回は狭い室内だし、相手はかよわい女性だし、佐藤もそこまでしないと思うけど、ああでも前に尾行してきた女の子に確実に何かしたらしたんだよな、次の日から顔を見せないくらいの、何かを!!!
 ドアが完全に開ききらない内に、飛び出す。初めて来る店だけど、道順を思い出して迷うことなく部屋に直行する。さっき、何気なくだけどフロアを見渡していて良かった……!
 307の部屋の前に立つ。一番最初にこの部屋に立った時は、こんな事になるとは思わなかったのに。
 開く時に少し手が強張った。でも、躊躇ってなんかいられない!
「さ、佐藤!!!!」
 ガチャ、バン!!
 勢いよく開いたドアの振動は、両隣の部屋に伝わってしまっただろうか。
 幸い――というか、想定した最悪の事態、という訳ではなかった。
 と、言うか、佐藤しか居なかった。座ってる位置も、俺がトイレに行く前と同じ。
 でも、何もなかったと思えないのは、その不機嫌極まりない佐藤の顔で解る。ストレスが体内にパンパンに詰まってるような顔だ。
 まあ、つまり……終わった、んだろう。この部屋で起きただろう、ひと騒動は。
「…………」
 何を言っていいか解らず、俺は立ち尽くした。
 このまま、気を取り直して歌うか?
 アニソンとか、番組企画から出たイロモノとか……
「………帰るか、吉田」
 佐藤が言う。
 ……うん、やっぱり、ね。


 多分、俺は謝らないといけないんだと思う。
 さっきの女の人、多分だけど俺が山中かと勘違いした人の連れだったと思う。だから、俺が確認の為にドアを開けた時、目をつけられたって所だろう。
 で、ドア越しに俺がトイレに行くのを見て、声をかけて遠ざけた、と。
 そして、その後に佐藤の所へ行ったんだろう。部屋で1人きりになっている佐藤の所へ。
 それからの事は、想像も追いつかない。
 相手が何を言ったのか、それに対し佐藤は何と返事をしたのか……何をしたのか。
 っていうか女の人は? 男の人の所に戻ったのかな。だといいんだけど。
 ドアの外からでも、そっと窺って見て来るべきだったかな……でもとてもそんな感じじゃなかったし………佐藤が。
「……吉田」
 カラオケ屋から出て、佐藤が初めて口を開いた。裏通りに入って、人も居なくなったからだろう。
「どうかした? 泣きそうな顔になってる」
「ええ?そ、そうでもないけど?」
 人は嘘を言う時、視線を逸らす。
 だから真っすぐ見ようと試みると、口がどもるんだよな……上手くいかない。いや、上手く出来てるからだろうか……
「何かあったと思ってる?」
「……………」
 佐藤は意地悪だ。俺が一番嫌な事を言って、それを回避させる為に本音を言わせる。
「そうじゃなくて……」
 多分……有り得体に言えば、自分が情けない、って所なんだろう。
 俺のした事はアレだ。つまりは好きな子を貞操の危機に晒した……って所なんだろう。
 相手に回避スキルがあるとか、実際上手く収めたとか、そういう事じゃない。そんな事態に俺が追いやったって事が問題なんだ。凄く。
 好きな子を守れない、ってのはかなり精神的ダメージだ。黒板に書かれた英語を前に出て訳せって言われる時以上に。
「……何も無かったんだよな」
 佐藤に言ってみる。確認なのか、希望なのか、それもよく解らない。
「ん? 疑うならチェックする?」
 俺の部屋で、と悪戯っ子みたいに言う佐藤。
 そんな事を言われたら、いつもならカーッと顔が赤くなる。だけど、今は心が胸の辺りから腹の辺りまで沈んだ気分だけだ。
 そういう俺の状態に気付いたのか、佐藤が場違いな事言ってゴメン、みたいな顔をして頭を撫でる。
 先に謝られたら堪らないから、俺はすぐさま言った。「ごめんな」って。
 言葉が全く足りないのに、ちゃんと佐藤は理解してくれた。こういう所は少し惚れる(あくまで少しだけ)。
「別に吉田の指図で成った事じゃないだろ」
 それは、勿論。
 ただの意味のない自己嫌悪だってのも、解ってる。
「でもさー……すっごく格好悪い」
「うん、まぁ、でも、俺としては矛先が吉田じゃなくて凄く良かったと思ってる」
 がっくりする俺に、佐藤が言う。
 また訳の解らない事を……俺みたいなのにああいう女性が声をかける訳ないだろ。掛けるとしたら、佐藤絡みだけだっていうのに。そう、今回みたいに。
 うーん、今みたいな事が無いようにするには、どうしたらいいんだろう?
 声をかけて来る女の人は片っ端から無視するとか?いや、まぁ、最初からあからさまに佐藤目当てなら今だってそうしてるけど、今日みたいな変則的手段に出られたら、俺には難しいし……
 なんて考えていたら、頭の中をシャッフルさせるみたいに、佐藤が猛然と俺の頭を撫でまわす。人が真剣に考えてる時に何すんだよ!ちょっと本気で目も回ったし!
 クラクラしている俺に、佐藤は楽しそうに笑う。鬼だ。
「前にも言ったろー? 吉田は何も知らなくていいんだって」
「はー? 何が?」
 確かに、言われたような内容だと思うけど……何を知らなくていいって言うんだ。俺はお前みたいに、人の言葉の裏の裏の裏の裏まで探る事は出来ないんだぞ!もっと、解りやすく言え!!
「吉田は、拳振るってコラー!って済む事だけやっつけてればいい」
 なんだそれ。小学校から変わるなっていうのか。身長以外にも。
「俺は、そんな吉田が好きだし」
 ……好きって言えば俺が黙ると思えば大間違いだ――――!!!
 ってまさに今、黙ってるし俺は!!!!
 今度はきちんと、顔が見事に赤いらしい。佐藤は満足そうに笑っている。
「まあ、あれだよ。結局、人に限らず存在ってのは、強くなって一人になるか、弱くて協力し合うかのどっちかなんじゃないかって思う」
 物凄い極論だなぁ。まあ、明らかに間違ってる!っていう反証も思い付かないけど……
 そこで一旦区切って、佐藤は俺を見据えた。静かすぎる視線に、ドキッとなる。
「吉田は皆と居たいだろ?」
「……………」
 うん……まあ、そりゃそうだよ。
 秋本と牧村と一緒にワイワイするのも楽しいし、とらちんとも遊びたい。山中だって、まあ出来れば友好になれたらなぁ、と思わないでもない。
 そういう事が全部出来なくなるのは、素直に嫌だ。
 その引き換えに、ずっと佐藤が傍に居るんだとしても。
 昔、やたら苛められてた佐藤は、再会して凄く強くなっていた。問題も一杯増えたけど、少なくとも俺の知る範囲で佐藤に敵うヤツは居ない。校内の情報操作はしちゃうし、多分その能力は校外でも通用してんじゃないかな。
 そういう意味じゃ、佐藤はとても強いよ。
 だからさ、俺は思うよ。
「強くて、皆と居られたら、一番良いよな」
 俺が言うと、佐藤は少し驚いたように目を見開いた。何だよ、俺は変な事言ってないぞ。むしろちょっと良い事言ったぞ。……多分。
 開いた目を元の形に戻して、それから、佐藤は「そうだな」と言って微笑んだ。
 その笑顔は綺麗だったけど、まるでサンタの存在を信じてる子供に向けてるみたいな笑顔で。
 俺は、ちょっと、ムカついた。



<END>





*何となく吉田1人称でやってみました。結構楽しかった(笑)