その月の1日が日曜で始まる時、第2週の金曜に吉田はとてもそわそわするのだ。しない時もあるが、そうなっている時もある。
 そして佐藤は、その理由を知っていた。
「なー、吉田?」
「んー?」
 今日こそは第2金曜日。そして「そうなっていない時」であったので、佐藤は吉田に呼びかけた。
 あのさ、と割と勿体ぶり、吉田の注意を引きつけてから言った。内心、言った後の吉田の反応のワクワクしているが、それを露見させては計画が台無しなので注意深く隠して。
「そう言えば今日って13日の金――」
「―――わーーーーー!わぁわぁわああああああ!聴こえない!何も聞こえなーーーい!!」
 さすが吉田。最後まで佐藤に言わせる事無く素早く耳を隠す。案の定で期待を裏切らないその様子に、佐藤はいかにも楽しそうにクスクスと笑った。
 佐藤が言うのを止めても、吉田は耳を塞いで声を上げるのを止めない。塞いだまま声を発すれば、それが中で響くので外部からの音は殆ど聴こえない事になる。
 そんな吉田は見ていて楽しくて面白いけど、話が出来ないのは詰まらないと、佐藤はそっとだがしっかりと手首を掴み、耳から外す。
 その時、吉田が「ひっ」と怯えた様な顔になり、堪らず吉田にだけ擡げる加虐心が存在を主張してきたが、ここでは一旦引っ込んで貰う。
「別に、ここは日本だし、人気のないキャンプ場でも無いけど?」
 ジェイソンが飛行機に乗ってくるの?海を泳いでくるの?とにやにや揶揄する佐藤に、吉田は恨めしそうな目でぎりりと睨む。
「うっさいな! もー、手ぇ離せ!!」
 ここ学校!と正確にはオチケンの部室だが線引きを訴える吉田に、佐藤は手を離してやった。あまり強く握っては無かったが、吉田は手をプラプラさせる。
 そんな仕草も佐藤には可愛くて、他人には見せない緩んだ顔で微笑んでしまう。
 と、どうでも良いが気になる事が。
「吉田って、元の作品見た事あるの?」
 とでもじゃないが、全編滞りなく視聴出来たとはとても思えない。せいぜい、序盤10分か下手すれば5分か、と佐藤が思っていると。
 いいや、と吉田は呻く様に言う。そして、続けた。
「……ほら、夏になると怖い映画特集みたいな番組やるじゃん?そういうので出て来て……」
 新聞に最初から書かれてあれば良いけど、途中のコーナーとかでやると目に入っちゃうし。もごもご、と恥を忍んで晒す吉田。
 想像の斜め上を言ったその回答に、佐藤はまずきょとんとした。次いで、ぷっと吹き出す。
「なな、何だよぉー!」
 こっちは真剣に困ってんだよ!と吉田が怒りついでに赤くなる。
 しかし吉田は男子としてのプライドもある男だ。怪談が怖い自分を恥じているようで、むしろ羞恥の方で赤いのだろう。
「じゃあ、夏は吉田にとって危険なんだな」
「……危険っていうか……」
 まあ、確かに安全でも無いかも?と首を捻りながら呟く吉田。
「別にさ、無くせとは言わないけど、ちゃんと区別はして欲しい」
 むむぅ、と難しい顔をして吉田が言う。
 そうだね、と軽く返事をしただけの佐藤だが、内心その台詞には感心のようなものを抱いていた。世の中には自分の否定するものが存在するのが許せないと、相手の言い分も聞かずに闇雲に排除にかかる輩も多い。
 吉田は自分には理解が出来ない事でも認識はちゃんと出来ているのだ。その辺り、偉いと思う。
 肝心なのは共存より棲み分けだ。吉田はそういう所がちゃんとしているから、秘密だらけの自分でも付き合ってくれているのだと思う。
 何もかも解り合える関係でも良いが、秘密があっても築ける関係も、また良いものだ。
 まあ、あの3年の事は、いつかきちんと伝えたいとは思うが。……いつか、は。
「なあ、吉田」
 と、気分を切り替えて佐藤。
「今日、帰り暇か? ウチに来いよ。途中でDVDでも借りて行って」
「うん、良い………」
 と返事しかけた吉田が止まる。さすがに、察せれない訳では無いらしい。
「怖いのとか借りないだろうな!」
「借りない借りない」
「ホ、ホントか!?」
「ホント、ホント。
 何ならずっと貼りついてたらいいだろ?」
 さりげない佐藤の誘いに、吉田はほいほいと乗っかった。絶対目を離さないとばかりに今から意気込んでる吉田に、おそらく不吉なこの日なのだろうが、佐藤にとっては最良の日となった。



<END>

*そういえば怖がり吉田なのに13日金曜日ネタ使って無い!と思い立ちまして(笑)
 短いですが日に合わせて書きました^^