「そういや、今日は猫の日だったっけ」
 と、佐藤が呟いたのは、塀の上で寛ぐ猫を見た時だった。そうなんだ、と吉田は目を瞬かせる。
「やっぱり、鳴き声がニャーだから2の付く日、って事か?」
「多分、そうだろうな」
「ふーん、安直だなー」
「吉田に言われたら、おしまいだな」
「……どういう意味だよ!!」
 ちょっとした揶揄にも、噛みつくような反応をする吉田を佐藤は楽しんだ。今は下校中の帰路の最中なので、恋人っぽいやりとりは少し控えないとならないのがちょっと辛い所だ。
 まあ、こんなどうでもいい会話も、吉田とだと凄く楽しい。何でも無い事でも、吉田とだとキラキラと輝いているようにすら思える。
「次、生まれ変わるとしたら、猫がいいかな」
 佐藤がそんな事を言う。
「猫になって、吉田の家に上がり込んだり、吉田にご飯ねだったり、」
「なんで俺ん家限定なんだよ……」
「だって、他に行きたくないもーん」
「……”もーん”って……」
 似合わないぞ、とばかりに顔を顰める吉田だった。
 佐藤は、にこにこと自分が猫になった時の生活を思い連ねる。
「楽しいだろうなー。学校にはついていけないけど、部屋でずっと吉田の膝の上でごろごろするんだ。
 でもって、寝ている吉田のベッドに潜り込んだりしてさー」
「…………」
「? 吉田?」
 ちっとも軽口に乗って来ない吉田を訝って、佐藤が呼びかける。吉田は、ちょっと顰めたような、拗ねたような顔をしている。そこまで、不満に思うような事を言ったつもりはないのだが。
「……ヤだよ。猫になったら、こうして話も出来ないだろー?」
 まあ、たまに今でも話が出来てない時もあるけど……と、ぶつぶつ呟く吉田。言いながら、少し赤らめてる頬が堪らなく愛おしい。
「……そっか。うん、そうだな」
 頷きながら、吉田への想いが溢れるのが解る。
 佐藤は、自分なんて、吉田には何も与えるものが無い、出来ないとすら思う。それならいっそ、可愛いだけの愛玩動物として傍に居られたら、なんて思う事も。
 けれども、吉田はそれだけじゃ嫌だと言うのだ。今の方が良いと。こんな自分で良いと。
(――大好き)
 本当に好きで好きで、そして吉田を好きになれた事を誇りに思う。
「それならさ、今度は一緒に猫に生まれ変わろうよ」
「えっ、俺もなの?」
「大ー丈夫。日々の食扶持くらい、なんとかするからさ」
「そういう問題じゃ……いや、そういう問題かも??」
 言いながら、首を傾げる吉田。
 真剣に考えているようなその姿に、佐藤は堪らず笑みを浮かべる。この顔を見れば、誰もが吉田の事を好いていると、一発で解る程無防備な好意で満ち溢れている、そんな笑みだった。
「学校も無いからさ、ずっと一日中、吉田と一緒だな」
 適当に起き、寝て、ぷらぷらと歩いては暖かい所を見つけて、寄り添って。ずっと。
 猫の生活だって、決して楽なものでもないと思うけど。
 けれど、やっぱり吉田と一緒なら、それすら佐藤にとっては幸せな日々に違いないのだった。



<END>



*短めですが、猫の日SSです^^