あんまり凄いのじゃなければいい、と言ったのにも関わらず、激しく口づけされてまた半ば意識を飛ばしかけた吉田だったが、それでも無断外泊はすまいという理性は残っていた。
 普通に舌が回るくらいに回復した頃、自分の家に電話をかける。ほどなくして、母親が電話に出た。
「――って事で、今日佐藤ン家泊まるから。うん、大丈夫」
 そこまでは普通に話していたが、次の瞬間から吉田の態度が変わる。ちょっと慌てたようになった。
「いや、いいよ、そんなの! 佐藤だって困るだろ、そんな! じゃあね、切るからッ!」
 耳から携帯を離し、電話を終わらす。今の様子から見て、相手の返事を待ってから切ったのかどうかはとても怪しい。
「吉田ー? 何かあったのか?」
 俺の名前が出てたみたいだけど? と佐藤は背後から顔を覗き込んだ。いや、あの、と接近の仕方を気にしながらも、吉田は言う。
「いや、母ちゃんが佐藤に挨拶するから代われって言われて……」
「別に変っても良かったけど?」
 佐藤は基本吉田さえ傍に居てくれればいいが、勿論それを円滑に進めたいと思うし、それには相手家族に好印象を持って貰う必要は感じている。そういう本音はちょっと控えて、それだけを言うと吉田が顔を顰めた。
「で、でも………やっぱ、恥ずかしいし………」
「そんなに疾しい事してないのに」
「………………」
「ん? どうした、その可愛い反応v」
 佐藤のセリフに反応したように、吉田は顔を真っ赤にして俯いてしまった。どうやらさっきのキスは吉田にとって十分「疾しい事」だったみたいだ。
「だ、だから可愛くな………」
「まあ、嫌とかそういうの置いといて、恋人を家族に見せたくないって気持ちは俺にもあるな」
 佐藤から発せられた「恋人」という単語に、吉田はまた赤くなって反論も途中に黙ってしまった。
「…………。吉田、本当に可愛いね」
 意識されてる喜びに浸りながら、佐藤は吉田の体を反転させて、向き合う形にした。元々すぐ背後に居たので、かなり接近した距離となった。いやもう、触れあう寸前だ。だから、唇は触れた。
(う、うわ………)
 さっきみたいに一回を激しくしつこくするようなキスではなく、軽いものを何度も何度も繰り返すキスだった。口内を弄られる息苦しさも背筋をゾクゾクさせる感触も無いが、やたら恥ずかしい。
 頬に、額に、鼻先に。顔中に降ってくる。何故か口だけを避けるようにされて、いつここに来るんだろう、と吉田は今されているキスとはまた別にドキドキしていた。
 恥ずかしさに、吉田はぎゅっと目を閉じて降り注ぐ口づけを受けていた。
 そして。
 ぺろり
「――ひぇッ!!?」
 唇を舐められた感触に驚き、目を見開く。当たり前の光景なのに、目前に佐藤のどアップが待っていて、ドキンとなった。だって、佐藤の顔は綺麗で格好良くて……今、キスをしている相手で何より好きな人だからだ。
 開いた視界に移った佐藤は、次に綻ぶように微笑んだ。これまた、吉田の胸に直撃するような頬笑みで、一瞬くらりと眩暈がした。
「やった。目、開けたな」
 まるで悪戯の成功した子供のように言うと、見開いたままの隙を狙って、ちゅ、と可愛い音を立て、口にキスをした。沸騰したように真っ赤になった吉田の頬を、佐藤が優しく撫でる。見た目通り、その頬は熱く感じられた。
「吉田、キスの時目閉じちゃうもんな……俺、吉田の目、好きなのに」
「え、そーなんだ……? 俺、睫毛無いけど。点のような、っていうか点だけど」
 照れの為か自己否定に移った吉田を、佐藤はまた笑いかける。
「可愛いよ。とっても」
「……………」
 今回は可愛いに付け加えて、「とっても」という強調までついてきた。否定する気力もキスの余韻で失せている吉田は、そのまま顔の熱さを継続させるしか無かった。
(なんだよ……目っていうなら、佐藤の方がよっぽど………)
 切れ長の瞳に、涼やかな目元。下手な俳優より余程綺麗な二重に、薄過ぎない整った柳眉。顔のどの部分も、佐藤は第一級の持ち主だった。
(あ、そういえば……)
 佐藤はかなり様変わりしたが、決して整形した訳ではないのだ。
 吉田は、何となく佐藤の顔を眺めた。
「お、何だ? そんなに見つめられると照れるんだけど」
 嘘つけ、そこで照れるような性質か、と吉田は思った。
「え、えーと………」
 ここで素直に、昔の面影を探していたと言ったら、佐藤はどう思うだろうか。
 怒るか、困惑するか。それ意外か。
 吉田には判らない。佐藤の心の傷と深さは、佐藤本人にしか判らないのだから。
「……………」
「吉田?」
 場を誤魔化すのにはずるい手段かもしれないけど。佐藤の顔が近いのを好都合に、吉田は自分からキスをした。


 もしかしたらちゃんとした理由があるのかもしれないし、無いのかもしれないが、何となくクリスマスにはチキンを食べたいものだ。と、言う訳で夜はチキンをメインとして食事を済ませた。
 と、なれば次に来るのはデザートだ。つまり、ケーキ。
 期末テストに入る前に、クリスマスを吉田と過ごす事に浮足立った佐藤がいち早く予約をしたものだ、と本人自らが言っていた。
 そのケーキは、見た目からして吉田が今まで口にしていたケーキとは違った風貌をしていた。別に何も奇抜ではなく、逆にシンプル過ぎる程にシンプルだった。正方形の形で、表面にはテンパリングされて艶のあるチョコレートで覆われ、金粉が艶やかさを引き立てる程度に中央に添えられている。見える断面は幾層も重ねられていて、見るだけで味の複雑さが予想される。
「オペラってケーキなんだけど、知ってるか?」
 ナイフ片手に佐藤が聞く。今は全くの普段着だが、着る物を変えれば給仕する美麗な執事に見える仕草だ。
「んんー、何かいつかの夕方のニュースで言ってたような気がする………」
 何で主婦ってデパ地下とか好きなんだろうな、とその時の記憶を思い起こして吉田は思った。
「基本、コーヒー味のケーキだな。これとブッシュ・ド・ノエルのどっちにしようか迷ったんだけど」
「あー、そのブッシュドなんとかって、切り株のケーキの事だよな」
 吉田が確認に尋ねると、その言い方がツボに入ったのか、佐藤が口に手を当ててブッと吹き出す。
「何だよ。別に間違ってないだろ」
 憮然として吉田が言った。顔は羞恥で赤いけど。
「ああ、確かに……切り株なのは合ってる」
 クック、と喉の奥で未だ佐藤は笑っている。吉田は、もうほっとく事に決めた。
「きっと今頃、ケーキとか安く売られてるんだろうなー」
 吉田が何となく言う。佐藤と出会わなければ、今年もそんなケーキだったに違いない。その前に恋人が出来たとか、恋人が男だとか、それが昔庇っていた超肥満児だとか、処理に大変な事ばかりだったけど。今年は。
(そういや、とらちんどうしてるだろ)
 確か山中が一緒に過ごしたいとか駄々をこねてる、みたいな事を言っていた。まあ、虎之介のあの体格だ。自分のように安々と押し倒されないだろうし。
「日本って、25日過ぎるともう正月ムードだからなぁー。イギリスなんかじゃ、むしろ25日過ぎてからクリスマス本番って感じだったけど」
「えっ、そうなの?」
「ああ。ほら、クリスマスってキリストの誕生日だろ? 1月6日に公現祭っていうやっぱりキリスト絡みのイベントがあるんだけど、それまでずっと続くって感じ。 年明けよりも、クリスマスの方を大々的に祝ってるな」
「へえー………」
 やっぱり本をたくさん読んでるだけあって物知りだな……と吉田は素直に感心した。
 あと、今のは明らかに自分の体験からの意見だろう。
 小学卒業からの佐藤の行方は、結局艶子から聞いた。
 だから、こうして佐藤から聞けて、とても嬉しい。
 嬉しい。

 切り分けたケーキを皿に乗せ、それぞれの位置に置くと丁度ヤカンが沸騰を知らせた。切り分けている間に湧くように計算していたのだろう。手際がいいな、と吉田はそこにも関心した。惚れ直したとも言う(多分本人は認めないだろうが)。
 佐藤は紅茶を淹れに行った。結局、何もかもを佐藤に任せきりだった。吉田はただ食べているだけで。
 せめて皿洗いはしようかな、と吉田は思う。
 発酵した茶葉の芳醇な香りを携えて、佐藤がテーブルに戻って来た。
「じゃ、食べるか」
「うん」
 佐藤に促され、早速吉田は一口含む。
「おわー……すっげー美味いな、コレ」
 別に不二家やコージーコーナーが悪いというわけではないが、いかにも「別格」という感じがした。
「もっと欲しかったら食べてもいいよ」
「……いいの?」
「うん」
 もちろん、というように佐藤は頷いた。吉田は喜んでそれに応じた。
(やっぱり、好きって言ってたからかなぁ……佐藤、美味しそうに食べてる)
 いつもは何を食べても不味そうにもげもげ食べてるけど、今はどこか口元を緩めているように思える。
 吉田はそこで紅茶を口に含んだ。
「……ん? 紅茶もいつもと違う?」
「ああ、うん。特別製v」
「ふーん」
 吉田はコクコクとそれを喉に流した。いつもはない刺激のようなものを感じたが、苦にならない程度だったから特に気にしなかった。特別製という言葉に騙されていたのだ。
 吉田がもう少し年を重ねていたら、その刺激がアルコールによるものだと解っただろうに。
 そう、その紅茶にはブランデーが潜んでいた。さすがにこれから家に帰るという相手に酒なんて盛れないが、今日は嬉しくも泊まって行く事になったから、折角と。
(やっぱり、酔ったらどうなるとか、知りたいもんなv)
 だったら二十歳まで待てばいいのに、という真っ当な意見は残念ながら佐藤には通じない。
(さーて、どうなるかな…………)
 数分後の作用に期待して、佐藤はにこにこしていた。その顔を、吉田が「美味しそうに食べてる」と勘違いしていたのだった。


 吉田は申し出たのだが、結局後片付けも佐藤がしていた。2人分だし、大した量ではないからと押し切られてしまったのだ。あと、この家のキッチンは吉田には少し高かったのも原因の一つだ。
(全く、佐藤め………)
 ここまで過保護(?)に扱うなら、普段ももっと優しくしてくれたらいいのに。優しくというか、もうちょっと気遣って学校ではしないとか、そういう配慮とかを……
「…………?」
 この辺から、佐藤の仕掛けた時限爆弾(←アルコールの事)が動き始めていた。今はそういう場面では無いというのに、どうしてか胸が動悸をし始めてきて、顔も何となく熱い。
(……? 暖房効き過ぎかな…………?)
 気温を確かめようと、ソファから立ち上がるとふわーっとしたような浮揚感が襲う。高熱を出した眩暈とは、また違うような感覚だ。
「????」
 明らかな変調を感じた吉田は、そのままぼふんと座りなおした。
 可笑しい。何か、変だ。
(だ、大丈夫だよ。ほら、やっぱり2人きりで気づかない内に緊張してたのかも………)
 平気平気、気のせい気のせい、と自分に言い聞かせても、胸の動悸も、体の熱も、どんどん上がって行った。


 佐藤は人の気配に敏感だ。だから皿洗いの最中でも、吉田が背後に来たのは解った。
 それなのに、どうしてどしんと背中にぶつかって来たのをそのままにさせたかと言えば、吉田がそんな行動を取るとは思わなかったからだ。洗剤のついたスポンジ片手に、佐藤は少々面食らった。
「おい。吉田………?」
 ぶつかって来た吉田は、ぎゅうぎゅうと腕を回してしがみ付いて来た。
 苦労して首を捻って吉田を見下ろすと、呼びかけの声に反応して吉田が見上げる。
 顔を見せた吉田は、その顔どころか首筋まで真っ赤で、目は今にも涙が零れそうなくらい潤んでいた。
(犯された後みたい)
 そんな事を思った佐藤だった。
 泣きだしそうだった吉田は、ぐすっと鼻を鳴らして涙を零し始めた。
「う、う、佐藤、佐藤っ……!!」
「どうした?」
 洗っていたのが最後の一枚だったのは、幸いだった。洗った手で腰の下あたりに回ってる吉田の手を掴むと、一瞬離れたその手が佐藤の手を握る。体を向き合う形にしたい為に、一回離そうとしていた所だったので、佐藤は少し困って、ちょっと嬉しかった。
「どーしよー……俺、何か具合悪いかも……やだよ、これ病気? 病気??」
 ぐすんぐすんヒックヒック、とぼろぼろ泣く吉田は、佐藤にとって、とても可愛かった。何せ苛めっこなので。
「吉田、具合悪いの?」
 佐藤が訊くと、吉田は佐藤の背中に頭を押し付けたまま頷いた。
「何か、体熱くて。熱ある、絶対…………」
 そのあとヤダよー、ヤダよー、と繰り返す吉田に、ああ、酒が回って来たのか、と真実を知る佐藤はしみじみ思う。
(こうして泣き喚いてるのも、酒のせいだな)
 って事は、吉田は酒が入ると感情の起伏が激しくなるタイプか。佐藤は記憶した。しっかりと。
 今の吉田を堪能したい佐藤は、少し可愛そうと思いながらもやや強引に回ってる吉田の手を剥がし、ようやっと向き合うようになった。
 まだ吉田は、喉を引き攣らせて泣いている。
「うう……やっぱり風邪かな……ヤダー……病院行きたくないー………!!」
「おまえ、お化け屋敷だけじゃなくて、病院も嫌なの?」
 からかう調子で佐藤が言うと、激しい慟哭のように吉田が違う!!と叫んだ。あまりの剣幕に、佐藤も少したじろいだ。
「だって、折角今日泊まれるようになったのに! それなのに……!」
 もー、俺のバカー、と呟いて吉田は泣いている。
「………吉田」
 そうか、それが嫌でこんなに泣いてるのか。
 そう言えば、ここまで出来上がる前にそれなりの予兆はあった筈だ。でもそれは、我慢したんだろう。無理やり抑えようとしたんだろう。
 今夜、一緒に過ごしたい為に。
(愛されてるなぁ……俺………)
 どにうも自分の一方通行感が未だ抜けきらない佐藤にとって、相手の想いを実感できるのはこの上ない至福だった。
 力いっぱい抱きついてるのは、眩暈のせいもあるだろう。佐藤は吉田の体に手を回し、横抱きに抱き上げた。とても軽い体に、少し笑ってしまう。
 ふらつく自分を支える苦労から解放されたからか、吉田が少し表情を和らげた。
 標準を上回る佐藤にとって、平均以下の吉田はとても軽い。片手でも賄える程で、空いた方の手で涙の跡を拭ってやった。
「大丈夫だよ、吉田。それは病気じゃないから」
「ホ、ホント………?」
 まだ引きつるような喉で吉田が言う。
「ああ、本当」
 酒飲んだせいだし、という真実は言わない佐藤だった。
 代わりにこんな事を言う。
「もし本当に病気でも、絶対離さないから。こんな可愛い吉田、医者にも見せたくない」
 アルコールでぼーっとなってるからか、吉田は今の佐藤のとんでもない発言をスルーしてしまった。
 その後佐藤は、そうするのが正しいとでもいうように、ごく自然に吉田に口づけた。口内を弄れば、やはり普段とは違うような味がした。
「ふ、ぅ……んっ、ん……んん……っ」
(おお、抵抗しない………vv)
 いつもはどんな場面でも、舌が入れば異物にそれなりの反発してみせるのだが、今はそれもない。佐藤のされるままになっている。
「……は……ぅ………」
 暫く、そんな従順な吉田を楽しんでから佐藤はキスから解放した。酔いのせいではなくぐったりした吉田が、くてんと佐藤の肩に頭を預ける。はあ、と荒い吉田の息が佐藤の首筋を擽る。
「吉田?」
「ん…………」
 唸り程度だが、呼びかけて声が返るという事はまだ意識があるのだろう。かろうじて、かもしれないが。
 抱いたそのまま、佐藤は自分の部屋へと移動する。ベッドの上に吉田を置いて、座るようにさせた。ベッドサイドから足を垂らし、座る吉田はやっぱり半身がふらついてるようだった。
「寝るの………?」
 ここがベッドの上だというのは解るようだ。どうせなら「するの」と言って欲しかったなと勝手な事を佐藤が思う。
「ああ。寝ればフラフラするのも治るから。ほら、着替えような」
「う、うん…………」
 いよいよ酔いが進行してきた吉田は、当然のように脱がしに来る佐藤の手を拒まず、あまつさえ吉田ののサイズぴったりなパジャマを着せられても、何も疑問にも思わなかった。実はこのパジャマ、佐藤の用意したプレゼントだったりする。
 当初の予定では、これを見せて「いつでも泊まっていっていいからなv」と言った後で自分のタンスに仕舞う予定だった。そう、吉田には渡さないで自分の部屋にキープしておくのだ。
(まさかそれも告げずにいきなり必要になるなんてな)
 100%自分のした事が原因の癖に、佐藤は思った。
 着替え終わった頃には、吉田の目は虚ろだった。遂に睡魔が襲って来たのだろう。寝させるように布団を動かしていると、吉田が呟くような声で言う。
「佐藤は……?」
 一応質問の形になっているとは言え、居て欲しいと強請っているのは明らかだ。さっき、吉田の感情が爆発したきっかけがそれだから、ここで断るとまた泣かせてしまう……というのを差し置いても、その期待には応えてやりたい。
(シャワーくらいは、浴びようと思ったんだけどな……)
 まあ、今の吉田はそれくらい気にもならないだろうからいいか、と佐藤は決めた。
 手早く佐藤も着替えると、ベッドに潜る。並んで横になると、すぐに吉田が胸に縋りついて来た。こつん、と頭を当てる。それから、佐藤のパジャマを握りしめる手を強くした。
「頭、痛い?」
 その様子を見て、佐藤は聞いた。うん、とくぐもった声がした。
 そっか、と佐藤は呟き、吉田の体を上の方にずらす。室内の電気は落としたが、ベッドサイドにはまだ淡い灯りがある。
 佐藤は手で吉田の長い前髪を上げ、露わにした額に何度もキスをした。それがくすぐったいのか、吉田が笑うような吐息を漏らす。やがてキスを終えると、ぎゅうっと抱きしめ、頭に当てた手で優しく撫でる。
「ずっと、こうしててやるから」
「うん、ありがと………」
 吉田ははにかむように言って、程なくしてすやすやと眠りについた。綻んだその寝顔が、この腕の中が安息出来ると教えてくれて、酷く嬉しかった。
 胸を締め付けられるくらいに。
(本当に、ずっとこうしてて居たいよ………)
 募る気持ちのまま、抱きしめる力を強めてしまえば、吉田に苦痛を与える事になる。
 佐藤はそれを抑え、吉田の髪に顔を埋めた。



<終>