別に、今年にいきなりなったという訳でもない。
 去年も一昨年も、そんなような具合にはなった事があったが、特に気にもしないでこの季節は過ぎて行った。
 しかし、今年はそうもいかなかった。
 去年とは明らかに違う、自分の境遇のせいで。

 これに限った事ではないが、何にしても種類は豊富に用意されるものだ。それは便利であると同時に不便も持ち合わせた諸刃の剣だと吉田は思った。とりあえず、自分のようなビギナーに選択を与えるのはよろしくない。純粋に一番シンプルなのが欲しいのだが、それすらも解らない現状だった。
(佐藤に聞けば……解ると思うけど)
 しかし、吉田としてはなるべくそれは避けたい。
 佐藤に聞きたくないけど、出来れば店員にも聞きたくない。
 値段で選べばまだ簡単かもしれないけど、下手に変なものを買ってしまって悪化、という事態だけは避けたい。だから、一般レベル程度のものを買いたいのに、それが解らなくて吉田はずっとこの場に立ちん坊だった。どれにするか選んでます、と装う時間はもう超えてるかもしれない。
 最終手段の一歩手前として、母親にでも訊いてみようか。ある意味この道のエキスパート(少なくとも、吉田より)だし、多少の揶揄がついてくるが、それさえ我慢すれば。
「吉田?」
 と、呼ばれて吉田は心臓が数センチ飛び上がった程に驚いた。
「えっ、な、何、佐藤!?」
 何でここに?という意味も込めて、吉田は佐藤を呼んだ。よく考えてみれば、二人の帰路の分岐点前のコンビニなのだから、偶然遭遇したと思っていいのだが。
「通り縋ったら、お前の姿が見えたからさ。……何、買い物?」
 そう言いながら、佐藤は先ほどまでの吉田と視線の先を同じくした。
 その先には、所謂コスメセットのような化粧品がある。ファッション用から、薬用目的のものまで。
「ち、違う違う! ちょっとマガジン立ち読みしてただけ! もう帰るから!」
「ふーん」
 と、あたふたする吉田とは対照的に、佐藤は冷静に返事をする。
「ま、いいけど。……吉田、何か温かい物買って行こうぜ」
「う、うん」
 外、凄い寒くってさ、と佐藤は普通に話す。
(よ、良かった。バレてないみたい……)
 ほ、と胸を撫で下ろし、吉田は佐藤について行った。

 佐藤はホットのカフェ・モカを買ったが、少し小腹の減ってた吉田は肉まんを買った。外気と合い余ってもうもうと湯気を立てるそれは、かぶりつく前からかなり熱そうに見えた。
 両手で抱え、ふうふうと冷ますように肉まんに息を吹きかける吉田。
(可愛い………)
 横からそれを見下ろす佐藤は、そんな気持ちで胸がいっぱいだった。
 そしてようやく一口食んだ吉田だが、中の熱さのせいで、「あちっ!」と小さい悲鳴を上げて目を細めた。
「うーん、熱くて食べれないよ、これじゃ」
 むぅ、と眉を顰めて難しい顔をする。
「二つに割っちゃえば? そしたら早く冷めると思うけど」
「あ、そっか」
 佐藤の意見を聞き入れて、吉田は肉まんを二つに割る。熱い餡が冷たい外気に触れ、食べるに支障が無くなる温度になる。
「美味しい?」
「うん」
 ある程度冷めたとしても、依然熱さを保つ肉まんをはふはふと頬張る吉田に、佐藤は訊く。あちあち、と口内で肉まんを転がしながらも、吉田は答えた。
「要る?」
 と、半分に割った、まだ口をつけてない方を差し出す。佐藤は吉田のこういう所がとても大好きだった。きっと鯛焼きを分ける時でも、吉田は頭を相手に渡すのだろう。
 佐藤はその申し出は断った。飲んでる物と合わなさそうだし、それに自分で食べるより美味しそうに食べる吉田を見ている方が余程いい。
 やがて肉まんを食べ終えた吉田は、それの底にくっ付いていた薄紙をポケットに突っ込む。その変に捨てたりなんてしないのだ。吉田は。
 佐藤は、周囲に人の気配が無いのを確かめる。
「吉田」
 呼ぶと、吉田は無防備に佐藤を見上げ、一瞬目を見開いて顔を赤くする。佐藤がキスしようとしているのが、解ったのだ。
(なんで解っちゃうんだろうなぁ………)
 かーっと上昇をまだ止めない顔の熱を意識して、吉田は唸った。静かに黙って、優しく見つめる。そういう佐藤は、必ずキスをして来た。
 ふ、と佐藤の顔が降りて来て、吉田に影を作った。
 そしてそのまま――という訳はいかなかった。
 ばふ、とか。ぼふ、とか。
 とにかく、吉田の掌が佐藤の顔を止めた。
「や、あの、今はちょっと、」
「誰も来ないよ」
 簡潔に佐藤が反論すると、吉田がそうじゃなくて、とさらに言い返す。
「お、俺、肉まん食ったばかりなんだって! に、匂う……だろ?」
「別に気にしないけど」
「……いや、ちょっとは気にしようよ」
 真顔で言いきった佐藤に、吉田がぼそりと言う。
「佐藤はいいかもしんないけど、俺はヤなの。気にするの」
「そんなにしないけどなぁ」
「しなくても気になるんだって! こら! 顔近付けるな!!」
 押さえてる箇所が箇所なので、あんまり力も込めれずに、吉田は無理やり迫る佐藤の顔を持て余した。
 完全な力比べになってしまえば、吉田に勝機は無い。が、この場は佐藤が引いてくれたので事なきを得た。
「まあ、吉田が嫌だって言うなら俺もしないけどさ」
 少し、不貞腐れたように佐藤は言った。
「……………」
(別に、嫌とかじゃないんだけどな…………)
 むしろ嫌じゃないから気になるというか……と、吉田は胸の内でごちゃごちゃした。
 ごちゃごちゃしていたので。
 ちゅv
「……………。っんな――――――!!!?
「口じゃなければいいんだろ?」
 額にキスされて真っ赤になった吉田を置いて、朗らかに佐藤は笑って帰った。
 その背中を、吉田はふん!と一度睨みつけてから、自分の帰り道を辿って行く。少しばかりの怒りが治まったら、気になるのは別の事……と、いうか最初の問題に戻る。
(うーん、どうにかしないとな…………)
 やっぱり母親に、とかその場では思っていたが、結局訊けずに今日も終わってしまった。
 思春期ってこれだから、と解ったような事を胸中で呟いてから、吉田は口元を布団で覆って眠りについた。

 あれ? と思ったのは昇降口が見えてからだった。気づいたのが其処だっただけで、実際はもっと早い段階でそうなっていたかもしれない。
(うー、最悪……唇、切れてる)
 舌で確認してみると、そう酷い事にはなってなくて、表面に亀裂が走ったようになっているみたいだった。しかし皮膚が裂けているのには変わりなく、じくじくするような痛みがその箇所から唇に広がっていって、かなり気になる。
 教室に行く前、トイレに入って鏡で確認する。想像に近い傷痕が唇についていた。
(いつ治るかなぁ、これ)
 何せ気づけば治っていた、が常だったのでどうも基準も何もかも判らない。教室に行ったら牧村達にでも訊こうかな、と思っていた時。
「吉田、おはよ」
 佐藤が朝の挨拶を投げかける。少し、ドキ、となって振り返った。やっぱり佐藤が居る。当たり前だけど。
 登校時の、自分達が使う教室より少し離れた場所のトイレだからか、二人の他には誰も居ない。なのになんで佐藤がここに居るんだ?と一抹の疑問を持ったが、それを解消する手立ては無さそうだ。
「お、おはよ……」
 吉田がそう言う間にも、佐藤は近づいて二人の距離を縮めていく。
 まさか、やはり。二人きりだからか。
(トイレでなんてヤだ! ……とか言ったら聞いてもらえるかな)
 まだキスすると決まった訳じゃないけど、吉田は不安にドキドキしていた。
 佐藤の長い指が吉田にかかった。びくっと肩が戦慄く。
「あ、あのっ………!!」
「切れてるのか? 唇。 痛い?」
 しげしげと、佐藤は観察するように其処を見ていた。
「え? へ? ……あ、解る?やっぱり…………」
「いや、目に見えて解るというか……いつもよりこの辺膨らんでるかなーって」
 す、と親指が軽く触れた所が、まさに切れた所だった。じくりとした痛みが微かに走る。その感覚に目を細めた吉田を、佐藤は愉しそうに見下ろす。
「ま、俺だから解ったんだろうな」
 にやり、と一見意地の悪そうに見えるこの笑みは、勿論ろくでもない事の予兆だが普通のちょっかいではないのを、吉田は思い知る程思い知っている。
「わ、ちょ……っ………!!」
 いつもこういう事をしている自分だから解るというのを誇示したいのか、佐藤は当然の流れのようにキスを迫る。最初からだったのか、顎を掴まれた吉田はそれから逃げようがない。
 逃げれないから、抵抗をする。
「やめって……こ、ここ、トイレだぞ、トイレっ!!」
「関係無いよ、そんなの」
「……関係……あるっ………」
 佐藤は、まるで焦らすように近づいてくる。吉田は顎を掴まれながらも顔を逸らし、触れられまいと拒んだ。
 吉田が本当に触れて欲しくないと解ったのか、顎を掴む手が離れる。
 吉田が嫌ならしない、という言葉は本当のようだ。吉田にちくりとした罪悪感が芽生える。だって、嫌で拒んでるんじゃないから。
 ふぅ、と佐藤はため息をした。
「そんなに気になるなら、さっさとリップクリームでもつければ良かったのに」
 そうして吐かれた言葉は、吉田にとってかなりの破壊力を持つものだった。

 一瞬頭の中が真っ白になったように思えたのは、そのセリフを現実として認めたくなかったからだろう。
 しかし、現実はいつも残酷だった。
 言われた内容を頭で確認できた吉田は、自分の顔色が真っ赤なのか、青ざめてるのか、自分で判断出来なかった。
「いっ………い……!」
「ん?」
「いつから気づいてっ……!」
 吉田の声は、震えるようだった。
 唇が荒れている。……ような気がする。
 そんな風に思ったのはいつだったか。何かの拍子、たとえば唇についたソースなんかを舐め取った時とかだったと思う。
 舌でなぞった表面ががさついてるような気がして、吉田はキスされる度に悩んだ。何せそれまで唇のケアなんてした事なかったので、どういうのが潤った状態なのか、かさついてるのかが分別出来ないのだった。だからかさついてるかも、と思ったそれを打ち消す事が出来なくて今まで引き摺っていた。
 もしかしたら、元々でこのくらいだったかも。だって、佐藤何も言わないし。でも、気付いてて言わないだけかもしれないし、内心荒れてるなと思ってるかもしれないし……
 そんな風にぐるぐるしてきた吉田は、自分の中にある医療知識として「唇にはリップクリームを塗るといい」という処方を思い出し、コンビニ及び薬局各位に行ってみたが、買うとなるとこれまた恥ずかしくて二の足を踏んでいた。
(だって、どう見ても気にするような柄じゃないし)
 気にしても仕方ない顔、というか。凄い必要に迫られてるけど。
「や、やっぱり、佐藤にも解った? そんなに、酷かった?」
 あうあう、と混乱している吉田は、縋るように佐藤の腕を掴んでいるのに気づいていない。
(そこまで気にしてたのか………)
 真っ赤で涙目の吉田を見下ろして、佐藤は思った。
 そもそも、佐藤も吉田以外の感触を知らないのだから 別に吉田の唇が荒れてるとかなんて思っていない。まあ、季節が季節だから、少しくらい乾燥していて当然、くらいは思っていたけど。
 それでも、吉田が自分の唇を気にしている事には勘付いた。何度も唇を舐める仕草をするし、昨日のコンビニのように薬用化粧品の棚をちらちら見ているのにも気づいていた。
「だ、だったら早く言ってくれれば良かったのに! 俺、判んないんだから、そういうの!!」
 恥ずかしさのせいか、吉田が逆キレになった。んー、と佐藤は視線を彷徨わせてから。
「いや、吉田が気にしてるのは解ったけど、特に荒れてるとかは思わなかったし。俺はね」
「だ、だって………!!」
「そもそも吉田以外としてないから、どれが潤ってるとか俺もあんま解らないし」
「で、でも……! ……………えっ?」
 ぽろりと当然のように言われたセリフに、吉田は上を見上げる。すると、タイミングを図ったように佐藤が唇を合わせた。
 切れた箇所にピリとした痛みがした。
「んーっ………!」
 実に執拗なキスだった。まるで、昨日の分もまとめてされてるような。
 かさつくのが気になるのなら、と佐藤は吉田の唇を丹念に舐める。傷の所は何となく舌先でなぞってみると、痛みを感じるのか硬直した吉田の体がなぞる度にびくっ、びくっと戦慄く。それが楽しくて、佐藤は暫くその行動を変えなかった。
 痛いというより痒いに近い感覚もある。痺れすらも伴っているようで、普段では味わえない感触に吉田の頭はくらくらとしてきた。
「あ……ぅ………んっ………」
 唇同士を合わせるのではなく、まるで犬が飼い主にそうするように、舌で唇を舐る。これもキスの内なんだろうか、と混濁する意識で吉田の頭はそれだけを思っていた。
「ん……はぁ………」
 最後に、また唇をしっかり重ね合い、その感触を堪能した後で、吉田はようやく解放された。接触は無くなったが、名残のような感触は唇にまだ留まっている。じんじんと疼く。
 それを打ち払いたくて、吉田はぐいっと袖で唇を拭った。
「……イッ!」
 さすがに、今の行動は切れた唇に痛みを伴わせた。その箇所を舌で撫で、先ほどまで佐藤の舌がそこに触れていたのを思い出して、ぼっと火がついたように赤くなる。
「あーあー、そんなに強く擦るから」
 吉田の体の事なのに、まるで佐藤は自分の持ち物を損害されたように避難した。どれ、と手を覆う吉田の手をあっさり押しのけ、唇をぐいと押し上げて切れた場所を見る。
「……血は出て無い、な」
「いひぇ!」
 爪でなぞられた吉田は、発音に不自由して叫んだ。
「何すんだよ。バカ」
 痛みで少し涙目になった。もしこの後流血し始めたとしたら、絶対今の佐藤の行動が原因だ。
 バカ、バカ、と俯いた吉田は二人の足の先しか見えない。
「うーん……よく考えたら、これって唇切れない為に塗るんじゃなかったっけか……」
 だから、そんな風に呟いた佐藤が何について話しているのか、解らなかった。何なんだ?と顔を上げると、佐藤は小さいスティック状の何かを見ている。その表面にある文字を読み取っているようだった。
「ふーん、何か切れた後にも良さそうみたい。ほら、これ塗っとけよ」
 ぽん、と手渡されたのは、ここ最近吉田が購入方法に頭を酷使していた物だ。リップクリーム。
「……佐藤の?」
 別に、佐藤の唇、荒れてるようには思わなかったけど。それは胸に閉じ込めたまま、吉田は訊いた。
 佐藤は、いいや、と返事をする。
「吉田が唇気にしてたのは気づいてたからさ。でもこれ渡して、『治るまでキスしない』とか駄々捏ねられたら少し厄介かな、って思って」
 そんな事はしないと思うよ。
 とは、言えない吉田だった。多分、佐藤の想像通りのセリフを吐いて行動を取るだろう。
「塗ったら?気になるんだろ?」
 吉田の唇を指し、佐藤が言う。
「え、あ、ああ……うん………」
 吉田はどぎまぎしながら、リップクリームを回した。出てきた半透明の固形物に、何だか場違いみたいで落ち着かない。
 吉田は、テレビやCM等で女優が口紅を塗る所を思い出しながら塗ってみた。ぬるり、と辿った場所から滑る感触が伝う。次いで、薄荷のようなややキツい清涼感も。
「んー…………」
 とりあえず塗り終わってみたが、かなり違和感。口に何かついたまま放置しているような気分だ。まあ、強ちそういう状態と言えなくもないが。
「何か……変な感じ」
 素直に口に出していた。出来れば、もうこの場で拭ってしまいたいが、着けた目的が目的なので阻まれる。
「どれどれ♪」
「わあ! 何するんだってば!」
 先ほどのように、佐藤が顎を掴んで上向かせる。バチッと音がしそうなくらい、視線がかち合った。
「ああ、やっぱり着けると変わるなぁー」
 表面が濡れていて、激しい口づけの後を保っているみたいだった。
「えっ、そんなに解る?」
 皆にバレたら恥ずかしいな、と吉田が言う。特に女子とかにバレたら思いっきりからかわれそうだ。
「いや、大丈夫だと思うけど」
「そう?」
「うん、このくらい近くで、まじまじと見ないと解らないだろうし……
 ………………」
 不意に、という感じで佐藤のセリフが終わった。じぃ、と真っ直ぐに見詰める先は、吉田の双眸からやや下にずれている。
 つまり、唇。
「……………」
 気にしていた事はもうバレてしまっていたのだ。他に意地を張る理由の見つからない吉田は、そのまま素直に佐藤のキスを受けた。
 愛撫するでもなく、自分の欲情を満足させるでもなく、まるで確かめるように佐藤はしっかりと口づけして、離れた。
 再び見つめ合う形になった後、佐藤はその形のいい眉毛を顰める。
「確かに……変な感じだな。何味っていうんだ、これ」
 ううん、と佐藤が唸る。もろにリップクリームの味に触れてしまったようだ。
「ま、不味い、よな?やっぱ………」
 さっきから、もう吉田の心拍数は上がりっぱなしだ。
 何だって、佐藤はこんなにもキスしたがるんだか。
(そして俺は何でそれを拒めないのか…………)
 謎だ。と、いうか謎という事にしておかないと、恥ずかしさで身悶えそうだった。
 荒れが気になったのは相手に不快感を与えてないか不安になって、そして何が不安かと言えば佐藤がもうキスしてくれなくなるんじゃないか、という事だ。
 リップクリームを塗った唇は、どうやら不味いらしい。自分が切り出す前に、佐藤の方こそ吉田の唇が治るまでキスはしなさそうだ。吉田はそう思った。
 しかし、その考えは甘い。
 うーん、と思案顔になった佐藤が呟く。
「やっぱり、完全に薬用を買ったのが不味かったかな。でも下手に味がついててもアレだしなぁ………」
 真剣な顔で、ぶつぶつと意見を羅列している。
「…………」
 佐藤は諦めないようだ。その執念、もう感心するしか無いんだろうか。
「……そんなにキスしたいんだ」
 脱力したような吉田は、ぽつりと思ったままを口にしていた。
「もちろん」
 と、おそらく吉田だけが知る佐藤の満面の笑み。
「吉田とキスするの、好きだもん。俺」
 その言葉に、吉田はもう顔全部が真っ赤になって。
 リップクリームは佐藤が気に入らないようだったから、切れた唇も自然治癒に任せる事にした。
 それは今まで通りの方法で、でも全く違う理由だった。




<終>